花畑図書館さんぽ 小説家が通う図書館
今日の目的地である花畑図書館は足立区の中でも北寄り、駅で言うと谷塚駅からも竹ノ塚駅からも徒歩で30分以上かかる地域の図書館だ。私の図書館巡りはウォーキングも兼ねているので、竹ノ塚駅から歩いていくことにする。東口を出てそのまま東へ進み、大きな日光街道に出たら北へ。この日光街道沿いに「十勝甘納豆本舗」という大きな和菓子の店があり、寄り道したい誘惑にかられるが、煩悩を断ち切って図書館への道のりを進む。途中で右へ、その後左へと、南北方向・東西方向の大きな道を進めばいいのでわかりやすい。上部に足立区のマークがついている図書館が、花畑図書館が入っている花畑地域学習センターである。
花畑図書館は螺旋になっている階段を上がった3階にある。図書館エリアの入口が区画の真ん中にあり、その入口付近に新聞・雑誌コーナーやカウンター、左側に一般書架、右側に児童コーナーという配置。鉄道駅から距離があるので主な利用者は近くに住む人なのだろう、座席も比較的空いている。入口付近から雑誌ラック脇の細い通路を進んだ先に児童エリアがあるという区画割りのため、子どもの声が一般書架まで届きづらくなっており、集中して本を読めそうだ。
図書館の中の話をする前に気付いたことが一つ。3階の階段・エレベーターの前、図書館エリアの外にあたる区画にリサイクル雑誌コーナーがある。保管期間を過ぎた雑誌をもらえるコーナーだが、ここに「足立区民のみ一人2冊まで」という但し書きがあるのだ。他の足立区立図書館ではあまり見ない(でも、全く見ないわけではなく、どこかで見た気もする)ので、それだけ足立区外から来る人も多いということか。ここから花畑大橋通りに出て北へ向かって花畑大橋を渡るルートなら、徒歩12分でそこはもう埼玉県。ちょっとした但し書きに立地を感じる。
図書館に入って、まずは児童コーナーへ。最初の印象として、児童コーナーにしては棚の高さが高いように感じる。一般書架も児童コーナーも163cmの私よりやや低いくらいの棚が並んでいて、一般書架なら開放的に感じるが、児童コーナーの棚としては高いなあと。もちろん、児童コーナーの高い段にある本は上級生向けの本になっているなどの工夫をしている。棚の高さや素敵な絵本画が額に入れて飾られている影響か、工作などにあふれる子ども子どもした空間というより、ちょっと知的な児童コーナーという印象だ。奥には靴を脱いであがる「おはなしのへや」があり、壁に沿って並ぶ木製のベンチの下が引き出しになっていて、そこに絵本が収納されている。棚に本を差すかたちの普通の本棚とはちょっと違った本探しができる空間だ。
一般書架は先にも書いたように低めの本棚が並ぶので圧迫感がなく、気楽に本棚巡りができる。全体的にはそれほど棚見出しがないのに、特定の棚で妙に細かい見出しが並ぶのが面白い。例えば、医学(49)では病気別の見出し、料理(596)の棚では「食事」「鍋」「めん」「スープ」「マナー」「和食」「ドレッシング」等々見出しがずらり、日本の詩歌(911)の棚も和歌・短歌は緑丸、詩は赤丸、俳句は黄丸、川柳は青丸、と色別シールで分類している。医学や料理は他の図書館でも見出しを充実させていることは多いが、日本の詩歌をこのようにしている例はあまりない。利用者の利用の多さに応じたらこうなったということなのだろうか。
足立区立図書館では各館でテーマを設けて特設コーナーを設置しており、花畑図書館の特色コーナーは「花と緑」である。このテーマを聞いてまず思いつくのは、植物の本、園芸の本というところだろうか。もちろんそうした本も並んでいるが、もっと広げて、「花を訪れる」の分類に花の鑑賞をテーマにした旅行ガイド、「花を詠む・詠う」の分類に花を主題にした短歌の本といったものも並んでいる。「花と緑」という言葉からの広がりが面白い。
地名にちなんだ「花と緑」コーナー以上に地域性を感じるのは「朱川文庫」。直木賞作家の朱川湊人氏は生まれこそ大阪だが、育ったのはこの花畑、直木賞を受賞した当時も花畑在住だったのだ。直木賞受賞直後に足立区立中央図書館に行ったら、建物入口入ってすぐのところに「花畑在住 朱川湊人 直木賞受賞」の看板が立っており、個人情報をこんなに大々的に掲げていいのだろうか、せめて「足立区在住」くらいにしておいた方がいいのではと思った記憶がある。少なくともエッセイ等で引越しをしたという記述は読んだことはないが、今もお住まいなのだろうか。
それはともかく、朱川氏と花畑にはそうした縁があり、花畑図書館にも「朱川文庫」というコーナーがあるのだ。氏の著作だけでなく、サイン色紙、地元ミニコミ誌に掲載されたインタビューがコーナーを飾っている。展示されているインタビューを読むと、この花畑図書館はもちろん、足立区立中央図書館もよく利用するとある。図書館巡りでこれらの館に行く身としては、これからこの2館に行くときにはキョロキョロして朱川氏を探してみるか。少なくとも今日この花畑図書館には氏のお姿はない。
インタビューによると、朱川氏が小学校6年生のときにこの花畑図書館が開館し、その際に学校の先生から「花畑図書館には行かないように」と言われたとのこと。おそらく学区外にあたる場所をうろうろするなという意味だったのだろうと言っており、塾や習い事で離れた場所に遅くまでいるのも珍しくない今との時代の差を感じる。中学校の教師を取材した記事にあったエピソードで、朱川氏は中学生にして太宰を読み尽くしており、その教師は「太宰ばっかり読んでいると死にたくなっちゃうよ、他のものも読みなさい」とアドバイスしたという話も興味深い。本当に読みつくしていたら、太宰の作品にもいろいろあることが知れる。だけど、そんな声を掛けてしまったというのは、当時の朱川少年がそう言った方がいいような様子だったのだろうか。
それにしても、子供の頃から来ている図書館に自分のコーナーができるというのはどんな気持ちだろう。今現在どこにお住まいなのかは知らないが、もし花畑在住で図書館を利用し続けているなら、図書館職員は借りた本を見て「次はこんな作品を書こうしている?」と想像を膨らませているかもしれない。朱川氏が本を探す姿を勝手に想像しながら、本棚の中を歩いた。
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