花畑図書館さんぽ 地元の先輩
2026年8月31日から大規模改修のため休館に入る足立区立花畑図書館へ。現在の建物に来るのは今日が最後になるだろう。
5日前に来たときに一般書架の大部分は見たので、今日はまず雑誌コーナーを見ることにする。夏の甲子園真っ只中のこの時期、目に留まったのは週刊ベースボール 2026年8月24日号の表紙を飾る早実時代の斎藤佑樹。ハンカチ王子と呼ばれて戸惑ったというインタビュー記事を読んで、斎藤佑樹のハンカチ王子は実際にハンカチを使っているからまだわかるとして、石川遼のハニカミ王子は言うほどはにかんでいないだろうと当時感じたのを思い出す。続けてページをめくっていくと、「アジア甲子園」という東南アジアでの18歳以下を対象にした野球大会があるのが知れたり、デーブ大久保が駒田徳広を取り上げたコラムが面白く、わりとしっかり読んでしまう。
雑誌ラックの週刊ベースボールの下にはNumber 2026年8月6日号があり、こちらも横浜高校時代の松坂大輔。高校野球特集では現役選手ではなく引退選手に焦点を当てるという不文律があるのだろうか。または紙の雑誌を読むのは一定年齢以上だというターゲティングを元に、私を含めてその世代が懐かしいとつい手に取ってしまう元球児で表紙を飾ったということか。タイブレークが導入された今、表紙の2人がそれぞれ繰り広げたようなかたちでの延長試合・再試合はもう起こらないと思うと、記事に書かれた内容が更にまぶしい青春ストーリーに思えてしまう。
この2冊はソファ席で読んだのだが、次に手に取ったTarzan 2026年8月27日はバランスボールで読むことにする。花畑図書館には入口近くにソファが並んでおり、その端っこにバランスボールがあるのだ。固定リングにバランスボールを乗せた状態でカバーで包まれているので、転がってしまうことはないがボールの上に乗る感覚は味わえる。この号の特集「自律神経ゆったりメンテナンス術」を見て、健康を意識する記事を健康を意識した椅子で読むのもいいだろうと思いついたわけだ。
図書館でバランスボールに座るのは初めてで、ちょっと面白い。実践しないと意味がないことはわかりつつも、健康に関する情報を読んでいるだけで健康になった気になってしまうが、バランスボールで読むことでその気分が1割増しくらいになっている気がする。いや、一応は実際に健康的なことをしていることになるのか。大規模改修後も引き続きバランスボールを置いてくれるなら、ぜひまた座りたい。
お次は花畑図書館の特設コーナーの1つ、「朱川文庫」コーナーへ。直木賞作家の朱川湊人氏は子供時代をこの花畑で過ごし、直木賞受賞時も花畑にお住まいだったのだ。足立区立図書館との関わりでは、2012年に区制80周年記念事業として足立区に伝わる物語をまとめた『足立の昔がたり』を発行した際に監修を務めてもいる。足立区ウェブサイトのコンテンツ「~足立大好きインタビュー~ 直木賞作家 朱川湊人さん」 でも花畑図書館に通っていたことを公言しており、「ゆかりの人」という言葉では足りないくらいの花畑図書館との関係を持つ人なのである。
「朱川文庫」には朱川氏の著作やサイン色紙があり、その点はこのコーナーが2006年に設置されて間もない頃に見に来たときと同様。2026年の今は朱川氏を花畑図書館に招いて中高生ボランティアがインタビューを行ったときの様子も紹介されている。こうした地域ゆかりの特設コーナーは多くの図書館に設置されているが、時を経て展示内容を充実させているのが頼もしい。
紹介記事によると、花畑図書館には毎月第三土曜日に活動する中高生ボランティアがいて、2016年度最初の活動日にアイデア出しをしたところ、メンバー全員が何らかのかたちで足立区立竹の塚中学校、東京都立淵江高等学校と進学した朱川氏の後輩にあたることが判明してインタビューを企画、実現に至ったのだそう。インタビュー内容も小説家に話を聞くという要素と地元の先輩に話を聞く要素が混ざったものになっていて、このインタビュアーでしか引き出せない内容となっている。記事には中学の校歌も高校の校歌も今でも歌えますとしか書いていないが、きっと実際に歌っただろう。
インタビューの中に「『さよならの空』は花畑図書館に足を運んで調べたことが満載です」という言葉があるのを読んで、今日は『さよならの空』を借りることにする。花畑図書館では本の見返し部分に本の帯の紹介文を切り貼りしているのでそれを読んでみると、オゾンホールを食い止めるために化学物質が開発されるが、それによって夕焼けの色が見えなくなるという副作用が出てしまい…という物語とのこと。先の「足立大好きインタビュー」によると「朱川」のペンネームには「朝焼けの荒川」の意味を込めたそうだが、朧気な記憶では『花まんま』にも夕焼けのシーンがあった気がするし、私の中では夕焼けの方が朱川ワールドと繋がってる印象だ。読むのが楽しみである。
花畑図書館にはもう一つ特設コーナーがあり、朱川文庫向かって右にある「花と緑のコーナー」がそれだ。「花畑」という地名にちなんだコーナーで、花の育て方に関する本、押し花の本、「花を描く」「花を詠む」という切り口で集めた本…と発想を広げて本を並べている。目に留まった『御所の花』は安野光雅が吹上御苑に通って描いた植物画を収録した画集、開いたページに描かれているのはそれぞれの植物だけど、その周りにもたくさんの緑があって、その中に絵筆を持った安野光雅がいて…と空想が膨らんでいく。
最後に、図書館エリア入口で休館にあたってのメッセージを付箋で自由に書き込めるようにしているホワイトボードに目を通す。今回の花畑図書館の休館は大規模改修なので、現在の建物内側の様子とはお別れするものの、この建物自体とお別れするわけではない。なので、集まっているメッセージも「しばらくは会えなくなるけど、またね」的な軽いお別れ的なものが多い。その中に草加市から通っていて云々というメッセージがあり、気になって調べてみると足立区の北端にある花畑から毛長川を渡った向こう側の草加市瀬崎や谷塚の人にとって一番近い草加市立図書館施設は東武線を越えた西側の谷塚文化センター図書室、面積だけを比較しても花畑図書館の1129㎡に対して谷塚文化センター図書室は202㎡と小さく、草加市から花畑図書館まで来る人も一定数いるのだろう。
行政の線引きとは別に、それぞれの人にとってよく行く図書館、好きな図書館がある。私自身も江東区民ながらこうして足立区立図書館に来て本を借りているわけだが、借りることができなくてもその場で本を読むことに制限はないのが普通だ。図書館がこういう開いたかたちで運営されているのはありがたいし、ぜひこれからもこうあり続けて欲しいものだと思いながら図書館を出る。
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