千早図書館さんぽ 漫画心が刺激され
北千住の足立区立中央図書館のトークイベントに参加した後、有楽町線の千川駅が最寄りの豊島区立千早図書館へという図書館はしごに出掛ける。同じ日に行くには離れた2館だが、イベントは日時が決まっている、そして千早図書館は翌日から大規模改築による休館に入るため今の建物はこの日が最後、というわけでこの図書館はしごをすることにしたのだ。
足立区立中央図書館図書館のイベントと書いたが、正確には複合施設5階の生涯学習センターにあたるフロアの一室が会場で、イベント直前に着き、次があるからとイベント後すぐに出たため、図書館フロアには一歩も入っていない。トークイベントの内容が中央図書館リニューアルにあたって市民参加を募るものだったので、早めに着いて今の中央図書館を見ておきたいところだったが、半蔵門線で北千住に来るつもりが、路線のどこかでモバイルバッテリーが発火して東武伊勢崎線への接続がなくなるから乗り換えるよう言われ、押上駅から東京スカイツリー駅に行くのに迷ってしまい、着いたのがイベント直前になってしまった。定刻発車が当たり前の日本ではそれを活かした時刻表トリックミステリというジャンルがあるが、今を舞台にしたら遅延や接続運転停止のおかげでなかなか犯行が実行できないというコミック小説が書けそうだ。
トークイベントに少し触れると、全国各地の図書館新設やリニューアルに関わってきた図書館コンサルタントの岡本真氏と建築家の三浦丈典氏、加えて足立区長の近藤やよい氏も登壇。足立区立中央図書館リニューアルのスケジュールを説明した後、他の自治体での市民参加例が紹介された。中央図書館リニューアルについては、三浦丈典氏が代表を務める株式会社スターパイロッツが基本構想・基本計画策定支援業務・設計業務を落札、岡本真氏がCEOを務めるアカデミック・リソース・ガイド株式会社が技術協力先として提携しており、両社と一緒にこれから市民参加のリニューアルを進めていくことになる。
これから中央図書館がどういう場所にしたいかを考えるワークショップを複数回開催する予定で、今日はそれに先立つキックオフ的なトークイベントといったところ。会場は満員、4月から足立区で導入する図書館ナビゲーターの人たちも会場後方に並んでいて、活気のあるイベントだった。ワークショップの方は足立区在住・在勤・在学の人が対象なので私は対象外、どんな意見が出て、実際にどんな図書館になるのか、外野から楽しみにしていよう。
新しい図書館の話から一転、今日が最後の図書館へ。いや、これから大規模改築を経て新しい図書館ができると思えば、こちらも新しい図書館に関わる図書館めぐりといえるか。千早図書館は移設計画が前からあったものが東京オリンピック前の建設費高騰で一度凍結となり、その後同じ場所での改築に計画を変えたという経緯がある。今の建物としては、前の計画が凍結されて延命していたのが今日遂に最終日を迎えるというわけだ。千早図書館の前に着いて2階の窓を見上げると「ありがとう千早図書館 休館まであと1日」の文字が掲げられており、「あと●日」の数字を毎日入れ替える作業をした図書館員、それを目にしてきた地域の人の気持ちを想像してしまう。
入り口を入ると、正面に千早図書館へのメッセージを書いた付箋でいっぱいのボードがある。改築や移設などで図書館が休館するとき、図書館へのメッセージを募集して貼り出す企画をすることが多く、これもそうした企画だ。長期休館を控えた図書館に行くときは集まったメッセージを読むのも楽しみの一つである。面白かったのはメッセージに添えて千早図書館のキャラクターであるキツネの「ちはやちゃん」が描かれた付箋が多かったこと。図書館キャラクターを作る図書館は多いが、ここまで定着している様子は珍しい。キツネが描きやすいからか、または、豊島区立図書館の各館キャラクターは最近のように図書館キャラクターが流行るよりずっと前、1991年に登場しているその歴史の長さからなのか、はたまた、千川地域に絵心のある人が多いのか。面白い現象である。
千早図書館といえば、鉄人28号。作者の横山光輝氏が豊島区千早町にあったゆかりで、館内のあちこちに大小の鉄人28号が展示されているのだ。これらが新しい図書館にも引き継がれるのかはわからず、少なくとも当面見られないことは確実である。大きな鉄人28号に見守られながら利用者が雑誌を読む光景をしばし眺める。
壁に掲げられた横山氏の年表の前を通って、地域資料の図書館の棚(K0)へ。千早図書館のもう一つの特徴は千早進歩自由夢という千早図書館友の会主催のイベントを長く行っていたことで、私は残念ながら一度も参加したことはないのだが、少なくともコロナ禍前までは毎月のように行っていた記憶がある。友の会の資料で昔の千早図書館の様子が書いてある本があったような…と地域資料の棚を見ると、『千早百花ー千早図書館20周年記念誌』を発見。千早図書館が開館したのは1971年、おっと、私と同い歳か、その千早図書館が20周年を迎えた記録をまとめて1992年に発行された本だ。開館当初は「大根畑の中に図書館」という感じだったという話などが興味深い。これは借りてじっくり読もう。
書架のなかを歩くと、棚がスカスカしている。図書館が工事で長期休館する場合は、棚に本を入れたまま覆いをかぶせるなどして本を守りながら工事する場合と、別の場所に本を移動する場合があり、千早図書館は建物を改築するので当然後者である。そして本の移動についても、休館に入ってから一斉にすることもあれば、休館する前から少しずつ移動することもあり、千早図書館は早めに移動させているようだ。
その中でも気のせいか本が多く残っているように見える漫画・イラスト(726)の棚を見る。横山氏ゆかりの地域ということで意識して最後まで残しているのか、単に作業上の都合なのか。漫画そのものではなく、漫画に関する本がトキワ荘時代の古いものから比較的最近のものまで並んでいるなか、『フジモトマサルの仕事』が目に留まる。私は漫画には疎く、「フジモトマサル」と言われても全くピンと来ないくらいなのだが、開いてみると村上春樹周りでよく見る絵柄の人だと気づき、立ち読みしているとじわじわと面白さが伝わってくる。ほとんど漫画を読まない私がこの本を借りることにしたのは、館内での横山光輝氏の存在感が影響したのかもしれない。
そうこうしているうちに、閉館時刻が近づいてきた。書架を見ている間も常連利用者と図書館員が最後の挨拶を交わしている風の会話が聞こえてきたりして、ただの閉館時刻ではない「最後の閉館時刻」的な空気も少しあるが、基本的には静かに過ごす場所である図書館、ほとんどの人は黙々と本を開いて過ごしている。
『千早百花』『フジモトマサルの仕事』に加えて、各種の図書館(016)の棚で見つけた『本が語ること、語らせること』を自動貸出機で借りてから、せっかくなので最後の瞬間に立ち会うことにする。ただ、千早図書館に限らずどこの図書館でも閉館の瞬間に立ち会ったところでわりと通常通りに閉まるだけである。案の定千早図書館も静かに閉館時刻を迎え、常連の子どもと図書館員が手を振ってさよならする脇を通り抜けて図書館を出た。