南千住図書館さんぽ 行く館や鳥啼き魚の目は泪
千住大橋駅近くのポンテポルタ千住ブックポストで足立区立図書館の本を返してから荒川区立南千住図書館へ行く。足立区立図書館に返す本があるのと2026年8月31日から2年間かけて大規模改修する南千住図書館に休館前に行こうという2つの目的をそれほど深く考えることなく一緒の日にしたのだが、千住大橋駅から南千住図書館に歩いていくと千住大橋を渡ることになり、図書館巡り兼千住歩きとしていいルートを取ったと自画自賛する。
千住大橋を渡りながら芭蕉の旅立ちに思いを馳せる…といきたいところだが、令和8年の千住大橋の歩道は、東を向けば自動車専用道路、西を向けば千住水管橋とそれぞれ眺めをさえぎられて、ろくに川面が見えない。思えば、日本橋には景観を取り戻すための計画があるが、千住大橋はそのような話は聞いたことがない。ここは想像力で、車もない、木橋の千住大橋をイメージしながら歩く。
南千住図書館の入口手前の地面には、芭蕉が千住大橋から奥の細道へと旅立つ場面が描かれている。この絵を見ていると松尾芭蕉は千住大橋を渡って旅立ったものと思い込んでしまうが、隅田川を舟で上って千住で降りたその場所が南側の岸なのか北側の岸なのかはわからず、もし北側だったのであれば橋を渡ってはいないことになるようだ。大垣市立図書館が「松尾芭蕉の「奥の細道」の出発地について知りたい」という質問に答えたレファレンス事例では、「出発地が千住であることが分かる。ただし、足立区(北千住)側か荒川区(南千住)側かは定かではない」とある。
荒川区に寄せて江戸文学素人的想像をすると、これからしばらく江戸には帰らない旅へ立つという状況で、たとえ足立区側へと舟を降りたとしても、江戸との別れを惜しむべく千住大橋から景色を眺めてもおかしくない、そうした行動の中で川の南側に降りたとしても不思議ではないと思う。南千住図書館の入口広場の絵は、脳内で「このイラストはイメージです」の注意書きを添えつつ、この絵についての荒川区ウェブサイトの説明ページのように絵の中にいるような写真撮影をして遊ぶのがよさそうだ。
図書館は建物の2,3階にあり、そこまで上がる階段の壁にも奥の細道で芭蕉が訪れた場所とそこで詠まれた句が掲示されている。といっても、立派に句を刻んでいるというのではなく、筆文字風のフォントで印刷した句に手作り切り紙が添えてあるような牧歌的な装飾だ。手作り感ある今の飾りを見るのもこれで最後かと思うと淋しい。
3階一般書架エリアへ入ると、入口近くに「俳句コーナー」や「奥の細道文庫」がある。「奥の細道文庫」は南千住図書館独自のコーナーだが、「俳句コーナー」は2015年に荒川区が「荒川区俳句のまち宣言」をしており、他の荒川区立図書館にも設置している。更に、年に4回募集する「あらかわ俳壇」の投句箱は、図書館に限らず区の公共施設全てといっていいくらいあちこちに設置しているのだ。句・歌・詩全般に弱くて図書館のその種のコーナーを素通りしがちな私としては、勉強してついていきたいところだ。
「奥の細道文庫」は何といっても奥に飾られた木彫りの芭蕉2体の存在感が大きい。入口の地面に描かれた芭蕉もそうだが、やや面長な好々爺、歴史の重厚さよりは親しみやすさを感じる雰囲気の芭蕉だ。それに励まされるように俳句コーナーの棚を眺める。「俳句×小説家」というテーマ展示の棚には、せきしろ・又吉直樹の『カキフライが無いなら来なかった』や、芥川龍之介、夏目漱石の句集などがある。テーマ展示とは別のところに、シルバー川柳の本が13冊並んだ次に『ババア川柳 人生いろいろ編』という本があり、何という書名かとよく見たらシルバー女性による句に毒蝮三太夫がコメントを付けている本とのこと。なるほど。
歳時記も充実しており、『角川俳句大歳時記』は2006年発行のものと2022年の新版のものの両方が揃っているし、いろいろな切り口での歳時記は俳句に詳しくない身にも面白い。『地名俳句歳時記』という本が気になって開いてみたら、隅田川、日暮里などのように地名の項目があり、それぞれについて地名の説明と春の句ならこれ、夏の句ならこれ…と句が並んでいる。一応歳時記だけど地名を切り口にした句集とも言えそうな構成で、知っている地名を辿っていくのが面白い。
私にとって今の建物に来る最後になるから全体を見ようと思っていたのに、着いたのが18時前、俳句関連の棚を見ているうちに1時間ほど経ってしまった。最後に何か借りようと一般書架を急いで回って、『古びた未来をどう壊す?』を借りることに決める。何かの書評で読んでざっくり「SF思考に関する本」だと理解していたのを思考・想像・創造性(141.5)の棚で見つけて、心理各論(141)の中にこういう分類があると知る。私の好きそうな本が見つかりそうな141.5、覚えておこう。
3日前はカウンターで借りたので今日は自動貸出機で借りようと2階へ行く。2階は児童フロアで、閉館近くのこの時刻ではカウンターに職員が1人いるだけだ。いざ貸出手続きをというところで、ここの自動貸出機がICタグ式ではなくバーコード読取式であることに気付く。ここのところICタグ式自動貸出機を使っている図書館ばかり利用していたので、レアものに出会った気分だ。いや、荒川区立図書館にはときどき行っているので、荒川区立図書館に行っても借りないことが多いことの表れと捉えるべきか。もっと荒川区立図書館を使いこなそう。
振り返ると千住大橋から来たことに引っ張られて俳句関連中心の棚巡りになってしまった。でも、最後にこの場所らしい本棚さんぽができた感じでいい時間を過ごせたと思う。2年後にまた来るときも千住大橋ルートを使おうと心に決めて図書館を出た。
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