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梅丘図書館さんぽ 賑わう図書館の中で出会った本

visit:2026/02/08

2026年2月8日は、日本全国的には第51回衆議院議員選挙の日、関東圏にとっては今冬初めての大雪の日、と書いたら豪雪地域の人にはあの程度で大雪かと笑われるかもしれないが、とにかくそんな日であるところ、梅丘近辺の人にとっては改築で長い間休館していた梅丘図書館がリニューアル開館する日である。私は休館前に開催された梅丘図書館機能検討ワークショップに参加したこともあり気にかけていて、初日に行ってみたのだ。

この手のワークショップは区内在住・在勤・在学者に限定することが多いのだが、このときはそうした限定がなく、だから江東区在住・在勤である私も申し込むことができた。3階建てにして3階と羽根木公園が繋がるようにするという構想がベースとしてあるうえで、各階に何に配置するかで区側が提示した案が複数あり、それを参考にしながらグループに分かれた参加者同士がアイデアを出して、最後にグループごとに発表するかたちのワークショップ。あのときそれぞれの参加者の頭の中で描かれていた新しい梅丘図書館が、実際にどうなったのかが楽しみである。

ワークショップのときには、1階を児童サービス中心で賑やかな空間にして、3階を公園を借景として読書ができる空間にするという方向の発表が多かった印象だが、今日お披露目となった梅丘図書館は、1階がカフェと一体化した新聞・雑誌コーナーと3Dプリンタやレーザー加工機があるワークショップルーム、2階が一般書架、3階が児童書・家事関連本と多目的室というフロア構成だ。賑わい要素をワンフロアに集中させるのではなく、子どもで賑わうフロアと図書館とは直結しないサービスと繋げることによる賑わいのフロアに分散したというところか。

特に1階のカフェと一体化した新聞・雑誌コーナーは東京都内の図書館ではあまり見ないスタイルで、最近はカフェ併設の図書館も珍しくなく、貸出手続きなしでカフェに本を持ち込めるようにしていることも多いが、そのほとんどで本棚がある区画とカフェ区画は別にしている。紙でできている本は水分が大敵であり、濡れるとシミ・シワができてしまうため、そのリスクをなるべく避けるための区画分けだ。

一方、梅丘図書館では新聞・雑誌コーナーに隣接してカフェがある、いっそカフェの中に新聞・雑誌ラックがあると言ってもいいくらいの配置である。少なくとも23区にはここまで書棚とカフェを近づけている図書館はない。多摩地域では多摩市立中央図書館がカフェ区画にまで本棚を伸ばしている造りで、机の移動も自由にできて読書も自習もできる区画とカフェを仕切りなく繋げており、梅丘図書館とはまた違う雰囲気である。私が生まれた頃から公共図書館で掲げられているスローガン「くらしの中に図書館を」が、令和になってこういったかたちで体現されているのかと思う。

こんな風に分析的な文章を書くと、新しい図書館をじっくり見ているように思われるかもしれないが、実際にはそれどころではないくらい混んでいる。カフェには行列、図書館カウンターにも行列、フロアには人、人、人。駅から図書館への道のり途中にあるお店で昼御飯を食べたときに店員と他の客が話しているのを聞いて知ったのだが、昨日のテレビで梅丘図書館が紹介されたとのこと。後で調べてみたら「出没!アド街ック天国」の特集が世田谷区梅ヶ丘で、1位の羽根木公園にからめて梅丘図書館が紹介されていた。リニューアル後の初日という以外にそんな要因もあったとは、もし雪が降っていなければもっと混んでいたかもしれない。

それでもせっかく来たのだからと2階の一般書架を歩くと、図書館(010)の棚の辺りはこの人混みの中ぽっかり空いている。自分が見たい本がある場所が空いているからよしとすべきか、この人混みにあっても人が来ないことを嘆くべきか複雑な気分でいたら、内田樹『図書館には人がいないほうがいい』が目に留まる。人でいっぱいの図書館の、人がいない棚で、こんなタイトルの本に出会うとは。

冒頭だけざっと読んだところ、カフェを併設しておしゃれな空間にした一方で貴重な地域資料を含む蔵書の大量廃棄をした武雄市図書館(とは明言していないが)への批判などをスタートに、図書館の在り方を問う内容のようである。貴重な地域資料の廃棄がダメなのは言うまでもないとして、確かに図書館は人がいればいいというものではない、今この瞬間の梅丘図書館がまさに混み過ぎてゆっくり本棚を見るのがやや困難な状況になってしまっている。だが専門図書館ならともかく、区市町村による公共図書館としてはやはり「くらしの中に図書館を」だろうと心の中で本に向かって訴えてしまう。タイトルは注意を引くための極端な文句であって、きちんと読めばもっとマイルドな内容なのかもしれないが。

ちなみに、人気のあるジャンルの棚をゆっくり見るのが困難なほど混雑しているのは事実なのだが、ゆっくり本を読めないかというとそうでもなく、新しい梅丘図書館には予約システム制の閲覧席が80席あり、そちらに座って読書や勉強に集中している人も多い。2階のところどころに貼られた紹介文によると、この閲覧席の天板は群馬県川場村の木材で、世田谷区と群馬県川場村が縁組協定をしている関係から使ったのだそう。「縁組協定」という言葉自体初めて聞いたのだが、調べてみるとこの世田谷区と群馬県川場村の縁組が有名なようで、1981年に締結した協定だとのこと。

書架に話を戻すと、図書館の棚の対面に当たる言語(816)の棚もあまり人がおらず、居並ぶ本をマイペースで眺めてみる。背表紙に黒塗りがある『忙しい人に読んでもらえる文章術』が気になり手に取ってみると、「時間に終われる忙しい人にもひと目でわかりやすく正確に読んでもらえる行動科学に基づいた一生モノの文章術」と背や表紙に印刷した上で、正式な書名である「忙しい人に読んでもらえる文章術」以外の部分を黒塗りしている。おそらくこのデザイン自体が何が隠されているんだろうと知りたくなるという行動科学を利用したものなのだろう。まんまと乗せられて手に取ってしまったが、それだけ行動科学が有効ということか。

他の棚も一通り歩いてはみたが、じっくりと見るのは難しいところもあり、今日のところは帰ることにする。図書館巡りをしていて思うに、開館したばかりの図書館は自治体側の<こういう図書館にしたい>という思いがまだ強い。そこから時が経つに連れて利用者側の使い方に対応したり、寄せられた意見に応えたりするうちに、利用者側の<こういう図書館であって欲しい>という思いが反映されていく、そうなってからの図書館こそがその地域らしい図書館なのだ。それを楽しみにまた来よう。

帰り際には世田谷区立図書館で初めての導入となる1階セルフ予約図書コーナーで、あらかじめ梅丘図書館を受取館にして予約していた本を貸出手続き。返しに来る頃には開館当初の混雑が一段落した梅丘図書館が見られることを期待して図書館をあとにした。