令和7年度多摩市立図書館ビブリオバトル
visit:2025/11/09
ここのところ多摩市の実家に帰る際に寄っていた多摩市立中央図書館で2025年11月9日にビブリオバトルが開催され、私もバトラーとして参加してきました。実は去年も申込はしていたのですが残念ながらバトラー(発表者)の抽選に外れ、私は観覧だけのビブリオバトル参加にはあまり興味がないために当日足を運ぶこともしなかった、それが今年はめでたく当選して参加したというわけです。
書架の中でのビブリオバトル
場所は2階の中央付近、雑誌コーナーとサテライトカウンターの間。普段はテーブル席があるところを、テーブルを除けてスライド・観客席を設けてイベント会場にしています。つまり、仕切られた空間ではなく、本を探したり読んだりしている人にもイベントの様子が聴こえるかたちです。多摩市立中央図書館は、1階が落ち着いた内装で社会科学・自然科学・文学などが中心であるのに対し、2階は多摩中央公園に繋がる開放的な内装で、置いてある本も旅行・スポーツ・家事・児童書など気軽に読めるものが多い。もともとカジュアルな雰囲気の書架がイベントによっていつもより更にくだけた空間になっていました。
開始時刻を迎えて、まずは本の紹介者6人が前に出てくじ引きで紹介の順序を決定、それから次々に5分間の本の紹介とそれに対する質疑応答を繰り返します。場を仕切るのは大妻女子大学図書館サークルOLIVE(オリーブ)と帝京大学共読サポーターズのメンバーで、特に帝京大学共読サポーターズの人たちは定期的にビブリオバトルを開催、ときには誰でもZoomオンライン視聴できるかたちで行うこともあるそうで、場の仕切り方も堂に入っていました。
多様な本が紹介されました
紹介本についてテーマや縛りはなく、雑誌を含めていろいろな本が紹介されました。具体的には以下の通り。
| 紹介本リスト | |
| 1冊目 | 『『新 安心して絶望できる人生』向谷地生良・浦河べてるの家 |
| 2冊目 | 『数学セミナー 2025年11月号』 |
| 3冊目 | 『かみさまのおはなし』ふじたみつ |
| 4冊目 | 『しずかなパレード』井上荒野 |
| 5冊目 | 『衛紅 留日日記』衛紅 |
| 6冊目 | 『スイート・ホーム』原田マハ |
『新 安心して絶望できる人生』は心の病を抱えた人が集まって生活している「浦河べてるの家」を紹介する本。わたしはちょうど、この本の著者である向谷地さんを編集の先生と呼んでいる白石正明さん、この人は医学書院の「ケアをひらく」シリーズの創刊した編集者なのですが、彼が書いた『ケアと編集』を読んでいるところで、本で読んだ話について別の角度から見た話を聞いているような気分で興味深かったです。
「数学セミナー」は特定の号というより雑誌を紹介するような内容でした。「エレガントな解答を求む」という名物コーナーがあるそうで、発表者さんがこのコーナーの話をしたときに私の隣に座っていた人も頷いていましたが私は初めて知り、後に地元江東区で雑誌の発行元が出している『エレガントな解答をもとむ 名作セレクション2000~2020』を借りてみて、自分の数学能力の錆びつきぶりに愕然としてしまいました。私の場合、エレガントかどうか以前にまずは普通の問題を解く練習をする必要がありそうです。
『かみさまのおはなし』は古事記を子ども向けにやさしい言葉で書いた本で、発表者さん曰く、ご出身の関西では学校の遠足が古墳だったりして古代の世界・古事記の世界が身近な存在である一方、関東では歴史の話題になったとしても江戸時代、さらに遡ったとしても鎌倉時代あたりで止まってしまい、古代の話にはなかなかならないのを残念に思う。こういった本を通じて関東の人にも古事記の世界を身近に感じて欲しいと。
実はこのビブリオバトルのあと、参加者数人でカフェに移動して引き続き話そうということになり、多摩中央公園内のカフェで話したのですが、たぶん全員関東出身で、お住まいの場所やご出身の場所にこんなものがあるみたいな話として上がったのは、時代を遡ったものでも渋沢栄一や江戸時代の水路まで、まさに「歴史の話題になったとしても江戸時代」だったんです。自分が関東人なので今まで意識しなかったけど、確かにこの発表者さんの言う傾向はあるのかも。
井上荒野さんのミステリアスな小説『しずかなパレード』を発表したのは私です。このビブリオバトルでは発表者が手持ちマイクではなく、ワイヤレスヘッドセットをつけて話すかたちで、自分の声がヘッドフォンから聞こえてしまうために会場にとって音量が適量かわかりづらくて少し戸惑ってしまいました(今思えば、ヘッドフォンは耳からずらしてマイクだけ使うようにすればよかった気がする。この先参加する人がいたらご参考まで)。私の紹介本に対して質問した人のうち1人はイベント用の観覧席からではなくその外に立っていた人で、書架エリアの中という開放的な空間を使っていることで聴衆が広がった感じがして面白かったです。
『衛紅 留日日記』は阪神淡路大震災の犠牲となってしまった日本語通訳者の中国人・衛紅さんの日記で、本としては絶版になってしまっているけどNPO大阪府日中友好協会のウェブサイトから閲覧できるようになっており、この日に持ってきた本は発表者さんが自分で印刷して手製本したものだそう。私も少し読んでみましたが、1992年の天皇訪中の際に通訳を務めるほどの実力を持つ衛紅さんがさらに勉強しようと1年間の留学で日本に滞在し、日本のあれこれを楽しみ、ときに疑問を抱く様子が興味深く、それが1995年1月の途中で唐突に終わっていることに哀しい気持ちが湧きました。
『スイート・ホーム』は原田マハさんによる洋菓子店を舞台にした小説。お店に来た人全員を丁寧にお見送りする主人公の話を聞き、猿田彦珈琲とオキーニョ 亀戸店を連想してしまいました。というのはこの店も、スタッフさんの手が空いているときに限ってだけど、店を出る人を出口まで見送るんです。私はいつもかえって恐縮してしまうのですが、洋菓子店「スイート・ホーム」のお客さんはどうなんだろうと想像が膨らみます。
全員の発表が終わって投票タイム。最初に配られていた投票用紙に発表者・観覧者が一番読みたいと思った本を記入し、それをスタッフの学生さんが回収して結果発表です。投票の結果は⋯『しずかなパレード』がチャンプ本、2番目に票を獲得した『衛紅 留日日記』も準チャンプ本として表彰されました。表彰状とブックカバーをいただき、ありがとうございました。
参加者皆で作った楽しい時間
表彰後のコメントでも言わせてもらったのですが、このビブリオバトルは質問もたくさん出て発表者だけでなく聴きに来た人皆でこの場を作っている感じで、とてもいい雰囲気でした。最前列に座っていた方が頷きながら話を聴いてくれる方がいたのも話し手を勇気づけてくれて、『スイート・ホーム』の発表者さんが発表の中で触れていたのに加えて、私もあらためてその方がいて話しやすかったと感謝の言葉を贈ったくらい。
多摩市立中央図書館では毎年同じ時期にビブリオバトルを開催しているので、ご興味ある方はぜひ。冒頭に書いたように発表者は事前申込制で応募者が多ければ抽選に外れることもありますが、観覧は当日会場に行けばOKです。本に囲まれた空間で本の話をする時間を楽しみましょう。