巣鴨図書館さんぽ 恐るべき継続力
2026年昭和の日、本を返しに巣鴨図書館へ。行く前に昼御飯を食べようとJR巣鴨駅周りを歩いていると、ぱっと見で成人中心の行列が目に入り、何だろうと先頭の様子を見たら名探偵コナンのスタンプラリーだった。話には聞いていたけど、もはや子ども向けコンテンツではないということを目の当たりにした。
御飯を済ませて巣鴨図書館に向かうのに、せっかくだから最短距離を取らずに地蔵通り商店街を通っていくことにする。塩大福の店に行列ができているが、人数的には先程のコナンスタンプラリーよりこちらの方が短い。そもそも地蔵通り商店街自体が、祝日にしてはそれほど混んではいない。いつもはここで曲がれば巣鴨図書館という地点で曲がってしまうのだが、この機会にその先まで行ってみることにする。いかにも高齢者に向けたお店、八百屋・肉屋といった近所の人向けの店、健康グッズの店、昭和っぽいおもちゃ屋さんなど、観光で来る人向けの店と地元向けの店が混ざっているのが面白い。
巣鴨図書館に着き、カウンターへ向かう。今日返すのは3月15日に千早図書館で借りたものなのだが、3月16日から千早図書館が改築のため休館し、臨時窓口の開設が4月1日だったので、貸出期間がその4月1日からのカウントとなって4月14日が最初の返却期限、そこから1回延長して2週間後の4月28日が返却期限となった。休館してから臨時窓口設置までのタイムラグ分だけ長く借りられたというわけだ。それでも1日遅れてしまったが。
そういえば長期休館中の貸出がらみで面白かったのが、奈良県の生駒市図書館本館がリニューアル工事で2025年11月4日から5カ月間休館するにあたって実施した「図書館本館の本、借り放題!」という企画。普段は12冊まで2週間しか借りられないところ、休館前の11月1日から3日で本館で借りる分に限っては冊数上限なし、返却期限は2026年5月27日という大盤振る舞いの企画をしたのだ。調べてみると、2024年度末時点で生駒市図書館全体の蔵書が65万冊、そのうち図書館本館の蔵書が27万冊、この約4割にあたる本を保管庫に眠らせてしまうくらいなら借り放題企画で読んでもらおうということだろう。
この企画のチラシには「借り放題で借りた本は再オープン後の本館への返却にご協力ください」と書いてあり、借り放題というかたちで保管場所を分散をする、利用者が休館中の保管に協力する企画とも読み取れる。とあるミステリ小説で、図書館の蔵書が消えてしまった、謎を解いてみたら図書館廃止に反対する住民が蔵書を分担して保管していたというものがあるが、それに似たことをよりポジティブなかたちで実現したといえそうだ。
返した本のうち1冊だけもう一度借りたのを鞄にしまい、1階の一般書架へ。巣鴨図書館は、地下1階がティーンズコーナー、1階が新聞・雑誌、児童コーナー、一般書架の一部(日本の小説、家事関連本、参考図書)、2階がそれ以外の一般書架というフロア構成だ。参考図書、つまり調べものに使われる事典などは閲覧席のそばにあることが多いが、巣鴨図書館では机席がない1階に置いてあることにあらためて気付く。
小説の棚を見ていると、『ニムロッド』『共喰い』に「芥川賞」、『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』『下町ロケット』に「直木賞」、『羊と鋼の森』に「本屋大賞」といった具合に受賞作だとわかる小さなラベルが貼ってあることに気付く。それと関連してかどうかはわからないが、一般的には読書・書評(019)に分類される『本屋大賞 20**』(「本の雑誌」の増刊号として毎年発行されるその年の本屋大賞についての本)が巣鴨図書館ではこの日本の小説の棚の中にある。考えてみれば、小説を紹介する本はこうして小説本と一緒にある方が便利な気もする。
年齢的に対象外ではあるが地下のティーンズコーナーにも寄ってみる。前に来たときは階段を降りたところにリフレッシュコーナーがあったのだが、今はなくなっている。コロナ禍で撤去したままというところだろうか。隅のテーブルで展示もしているが、空間が広すぎて何だか淋しい。ティーンズコーナーは座席が埋まっていて、私が淋しいと感じた静けさが逆に集中できる空間を生んでいるのかもしれない。
2階は一般書架と閲覧席、GW前半である今日の閲覧席の埋まり具合は6割程度といったところ。巣鴨図書館の特徴は2階の窓を覆うのがカーテンやブラインドではなく障子であること。階段をコの字に囲うようにして本棚や閲覧席が並んでいる。
文庫小説本の棚に行くと、こちらにも「芥川賞」「乱歩賞」といったラベルが貼ってある。遠藤周作と言えば『沈黙』『海と毒薬』が真っ先に浮かぶが、芥川賞を取ったのは『白い人・黄色い人』だったのか。乱歩賞受賞作の『アルキメデスは手を汚さない』は長い書名にかぶらないようにラベルを貼るのに苦労した様子が見える。海外小説の文庫本の棚が見当たらないと探したところ、「日本小説の文庫本」「海外小説の文庫本」のように分かれているのではなく、「小説の文庫本」のなかで、著者名頭文字がアの日本小説→著者名頭文字がアの海外小説→著者名頭文字がイの日本小説…と並んでいた。そういえば、同じ豊島区の目白図書館でも全く同じように探して気付いた記憶がある。
芸術史(702)の棚で『パブリックアート入門 タダで観られるけど、タダならぬアートの世界』を手に取る。先日、友達から市民学芸員として関わったというパルテノン多摩の特別展「パブリックアートから見た多摩ニュータウン」の案内が来て観に行き、存在は知っているがあらためて鑑賞をしていないパブリックアートがたくさんあることに気付かされたのだ。『パブリックアート入門』はガイドブックとして持ち歩くのにちょうどいいコンパクトな本にして、国内のパブリックアートを多数紹介しているだけでなく、排除アートや時代による価値観の変化、撤去に関わるあれこれなどパブリックアートについての諸問題も解説されていて、とても勉強になった。
巣鴨に関わる本を集めた「巣鴨コーナー」では、先頭にある「本の雑誌」2014年4月号 特集:図書館を探検しよう!が目に入る。これが「巣鴨コーナー」にあるということは…と開いてみたら、案の定巣鴨図書館を訪れた記事が載っている。現在の建物ではなく改築前の建物の頃で、今は平らになっている建物前に小さな池がある様子などが懐かしい。記事の中にこの号が発売される頃には巣鴨図書館は改築工事で休館しているという記述があり、その頃だったかと記憶を辿る。
「巣鴨コーナー」には、地蔵尊や猿田彦大神、中山道、都電、明治女学校、津田梅子、羽仁もと子の本など地域ゆかりの本がいろいろあるのだが、特に見出しなどもつけずに巣鴨に関連する本を全て集めて日本図書分類順に並べてあるだけで、思えば改築前からこの状態だった。堀江敏幸『いつか王子駅へ』や南英男の「警視庁極秘捜査官シリーズ」があるのは作品中に巣鴨が出てくるのだろうか。
そうやって巣鴨コーナーの椅子に座っていたら、背後から鼻歌が聞こえてくる。どうも鼻歌を歌いながら本棚を見ている人がいるようだ。本を読んでいる間にいつの間にか消えてしまったので、男性だというだけで年代は全くわからなかったが、何とも気ままな人がいるものだ。
スポーツの棚(783)で目に留まったのが三浦知良『やめないよ』。確かに2026年の現在もまだサッカー選手を続けている、この本はいつ書かれたものだろうと開いてみたら、2006年から2010年まで日本経済新聞で連載したコラム「サッカー人として」をまとめたとある。ん?私は日本経済新聞を購読しているが、「サッカー人として」は今も連載されていて読んでいる。サッカー選手をやめていないだけでなく、この連載コラムもやめていないとは、彼の継続力たるや恐るべし。私はいつまで図書館巡りをしているだろうかと、「続ける」ことについて考えながら図書館を出た。