大田区立池上図書館さんぽ 調べることが目的の調べもの
まだ行ったことがない図書館に行ってみようと思い立ち、大田区立池上図書館へ。池上図書館は、図書館としては1956年に大田区で最初に開設された図書館なのだが、2021年3月30日に現在の場所に移転オープンし、建物としては現時点で一番新しい図書館である。私は現在よりひとつ前の建物には行ったことがあるけど、今の建物には行ったことがない。そこに今回行ってみようと思ったのだ。
今の新しい池上図書館は、2020年に池上駅がリニューアルし、駅ビル・エトモ池上が2021年3月30日にオープン、同日に図書館も駅ビル内に移転開館という経緯で、私にとっては新しい池上駅に来るのも初めて。駅改札を出ると右側の無印良品と左側のマツモトキヨシに挟まれた通路を歩くことになるのだが、両者とも白っぽい暖簾がかかっていてぱっと見でそれだとわからない。いや、改札を出る前の駅の内装からして木をふんだんに使った和の雰囲気で、池上本門寺への玄関口としてのデザインに小売り大手ブランドのロゴアピールも引っ込めさせられたというところか。
図書館がある4階にはスターバックスもあり、広く開いた図書館エリア入口とスタバが隣接していて、今風のお洒落な図書館といった雰囲気。書いてて思い出したが、RFIDゲートが図書館とスタバがある区画の出口にあったので、図書館の中にスタバがある、スタバでまだ貸出手続きをしていない本が読めるということなのか。いずれにせよこの日は図書館に行く前に3階のカフェカルディーノで昼御飯を食べてお腹が満たされていたんだった。次に行くときはカフェ読書を楽しむために、お腹に空きがある状態で行こう。
江東区在住・在勤の私は大田区立図書館の利用登録はできないので、ここでの過ごし方はその場で読めそうな本を楽しむ、じっくり読みたい本を見つけたらメモして他で調達するということになる。入って右手の小説の棚は閲覧席との距離が近く、受験前という時期もあってか机席は満席、鞄やコートの裾が邪魔にならないようにしながら棚を見ることになり、どうも落ち着かない。ここは一般書の棚をメインにぶらぶらするか。こっちの椅子席は空いている方が多いし。
棚は日本十進分類法の若い番号が手前で、奥にいくほど番号が進む順序で並んでいる。読書に関する本の棚(019)で楠木建『室内生活 スローで過剰な読書論』が目に入る。最近気が付いたのだが、私はこの人の考え方の根本的なところというか、理屈の奥にある感覚的な部分が好きなんだと思う。そう思っていながら1冊通して読んだ本は『好きなようにしてください』しかないのだが。
ここでも『室内生活~』を開いて、ミニコラム「本日は細部に宿る」を読み始めたら面白く、やはりこの人の文章が好きだと満足して本を閉じて他の棚へ移る。何だろう、一粒で満足してしまうがために、一粒しか食べなくなってしまっているこの感じ。楽しみを取っておきたいなどとはまた違う、この人の文章を読むこと自体が好きというより、この人の考え方に触れるのが好きなので、そこに達することができれば必ずしも読破したりする必要はない、みたいな。
少し先の事典類の棚(031)にあった『クイズ用語辞典』に、そもそも本1冊分になるほどクイズの用語があるのかと驚いて開いてみると、「7○3×」のようなクイズ形式を表す用語に加えて、懐かしいクイズ番組の名前やその司会者、クイズにまつわる有名エピソードなども盛り込まれていて、読み物として面白い。回答者に再回答を促す際の「聞こえませんでした」と「もう一度」の違いになるほどと思ったり、クイズ番組の回答を巡る裁判の話に驚いたり。
そういえば昔、江戸川区立葛西図書館で文学クイズのイベントを開催したことがあって、私も参加した。正解者だけ生き残る○×クイズや、小説家の名前の正しい読み方、芥川賞だったか直木賞だったかの受賞者を制限時間内に書けるだけ書く問題など、いろいろな形式のクイズをした合計点で優勝者を決めるというクイズ番組のようなイベントでとても面白かったのだが、参加者はふだん葛西図書館を使っている人よりもネット上のクイズイベント情報まとめページか何かで知って遠くから来た人の方が多いようだった。この本にもあったけど、素人参加クイズ番組がなくなってもネットやリアルでクイズを楽しめる場が沢山あるんだな。
更に奥へと進みながら棚を見ているうちに気が付いた。池上図書館は、または、大田区立図書館は、なのかもしれないが、同じ分類番号の本についてユニークな並べ方をしている、ような気がする。
図書館の一般書架は、内容によって概ね3桁、更に細分化したければ桁数を増やした分類番号を割り振って、その順序で本を並べている。同じ分類番号の本がそれぞれ一定程度あるので、その中でどう並べるかという問題が出てくる。私が図書館巡りで見てきた限り方法は2つあって、本のサイズ順(文庫判→新書判→四六判…)で並べるという方法が1つ、著者姓名五十音順というのがもう1つ。全くのランダム、同じ分類番号の中での並び順を全く気にしていない図書館もあるから、正確には3種類か。本を棚に戻す作業などの面ではサイズだけで戻す場所を決められるサイズ順の方が圧倒的に楽、一方、棚を見て本を物色する際には同じ著者の本が1ヵ所に集まる著者姓名五十音順の方が探しやすい。
著者姓名五十音順にしている図書館では、本のラベルを分類番号+著者姓名頭文字のようにして、五十音順で並べる作業をしやすくしているところも多い。例えば、楠木健『室内生活~』は「019 ク」といったように。言い方を変えると、ラベルを分類番号+著者姓名頭文字としている図書館は、同じラベルの中の並び順も著者姓名五十音順になっているところがほとんどだという印象なのだが、池上図書館では同じラベルの中で順序を本のサイズ順にしているのである。著者姓名頭文字までは五十音順にするのにその中ではサイズ順、いわば五十音サイズ混在型のこの並べ方はたぶんこれまで見たことがない、気がする。
「たぶん」「気がする」のようにやたらと歯切れが悪い言い方になってしまうのは、そこまで細かいところをいつも気にしているわけではないからだ。たぶん、ほとんどの利用者にとってはこんな細かいことはどうでもいいだろうし、本を探す際にもだいたいの場所がわかればどうにかなるのだが、何かを直感的に珍しいと思った、それが本当に珍しいのかを調べてみたいという気持ちが湧いてくる。
図書館を巡るなかで地道に調べている細かいことがいくつかあって、例えば、小説とエッセイの扱い方。この2つを「よみもの」として一緒に分類する図書館と別のものとして分類する図書館がある。池上図書館は小説とエッセイは別の棚だが、私が既に調査済みの23区内の図書館162館のうち「よみもの」として一緒にして著者名順に並べている館が104館と、一緒にしてしまう派の方が多いのだ。但し82館が未確認なので、全て調べたら結果が逆転する可能性もある。
別に調べたからといって何があるわけでもなく、気になったから調べる、それだけ。そういえば、エトモ池上では各フロアに割り振られたシンボルマークのようなものがあって、どういう意味が込められているのか建物をざっと見た限りでは説明などは見つからず、何だろうという疑問が解けないまま帰途についた。その後ネットで調べたところ、エトモ池上のデザイン監修をしたE.A.S.T.建築都市計画事務所の公式サイトの記事が見つかり、こちらを読むに紋切り遊びの紋をあしらっただけで深い意味はなさそうだ。調べた結果、大した意味がないということもある、調べものはそういうものだ。