ビブリオバトル@江古田 夏の陣 テーマ「あつい本 ~ホンとに、アツイ。~」
visit:2016/06/05
中野区立江古田図書館では半年に1度ビブリオバトルを開催しており、6月開催分を「夏の陣」、11月開催分を「冬の陣」として、毎回テーマを決めて行っています。ビブリオバトルをご存知ない方もいると思いますが、参加者が本を紹介しあい、「どの本が一番読みたくなったか」を基準に投票して、一番票を集めた「チャンプ本」を決めて遊ぶゲーム。詳しくは、ビブリオバトル公式サイトをご覧ください。ビブリオバトルには、参加者全員が本を紹介するやり方と、発表はしないけどディスカッションタイムや投票に参加する観覧者も加わるやり方があり、ビブリオバトル@江古田は後者のやり方で行っています。
本を紹介する参加者はバトラーと呼ばれ、これまでは6名募集、実際にバトラー参加するのは5名程度だったのですが、今回は定員を上回る8名のバトラーが集結し、4人ごと2ゲーム行うかたちに急遽変更。急に江古田でビブリオバトルブームが巻き起こっているのでしょうか?!職員さんに聞いたところ、8名が決まった後にもう1人バトラー希望者から図書館に連絡があり、心苦しい思いをしながらお断りしたそう。実は、前日にバトラー予定者の1人がキャンセルがし、その穴を職員さんがバトラーになることで埋めたという経緯もあり、その方に連絡がつけられたらと私まで残念な思いです。もし、そのバトラー希望者さんがこの文章を読んでくださっていたら、次回ぜひご参加ください。
観覧者は申込不要で当日会場にくればよく、実際に集まった参加者がバトラーと観覧者合わせて25名くらい。それでも、事前に用意していた椅子では足りなくて、椅子を増やしていたと思います。25名で満席になる部屋といえば、会場である会議室の小ささが伝わるかと思うのですが、実際にはこの規模がいい。観覧者の人数が多くなると、投票はするけど質問はせずに投票するだけの人が増えて、「参加」の度合いが減ってしまうのですが、今回の数字でいえば観覧者がバトラーの倍程度。狭い部屋がいい方に転じて、一番後ろの席の人でもバトラーとの物理的距離が遠くなく、「全員でこのゲームを作っている」感がしっかり感じられるんです。
毎回テーマを決めていると書きましたが、今回のテーマは「あつい本」。ひらがなで書いてあるのには意味があり、「熱い」「厚い」「暑い」…といろいろな「あつい」があるなか、どれと捉えて本の紹介に結び付けるかはバトラーの自由です。さて、バトラーの皆さんがどんな本を持ち寄ったのか、どの「あつい」と結びつけたのかも考えながら、まずは紹介本リストをご覧ください。
第1ゲーム | 第2ゲーム | |
1番手 | 『しっぽちゃん』群ようこ | 『君たちはどう生きるか』吉野源三郎 |
2番手 | ☆『窓辺の老人』マージェリー・アリンガム | 『本の逆襲』内沼晋太郎 |
3番手 | ★『神様もう一度だけ愛してると言わせて』青葉優一 | ☆『グリニッチ・ヴィレッジにフォークが響いていた頃』デイヴ・ヴァン・ロンク |
4番手 | 『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック | ★『天災から日本史を読みなおす』磯田道史 |
8名いるバトラーが第1,2ゲームのどちらになるかは、事前にあみだくじで決めたのですが、結果的に第1ゲームの紹介本は全て小説になりました。小説を紹介する場合はネタバレさせないように紹介しなければいけないという難しさがあり、バトラーさんはそれぞれ苦労して説明していましたが、聴く側にとっては自分の想像も加わって、読みたくなる気が強まります。
チャンプ本に選ばれた『神様もう一度だけ愛してると言わせて』もまさにそうで、バトラーさんはこの本を書店で見つけて、タイトルに惹かれて読んだのですが、神様にお願いするほどの「熱い」思いがぐっと来る物語だそう。結婚したカップルが、婚姻届を出したその日に、男性の方が事故で亡くなってしまう。それでも愛していると言いたい、発表内容を聞くと小説の設定で言える可能性がありそうな感じ、でも詳しいことは読んでからのお楽しみとお預けにされて読みたくなった方が多かったと思います。それに、発表から透けて見えるバトラーさんの人柄と純愛ストーリーも合っているように思えて、素敵な発表でした。
ビブリオバトル@江古田では、毎回チャンプ本とともに職員さんから送られる「江古田元気賞」というものもあり、第1ゲームで元気賞を獲得したのは『窓辺の老人』の発表者さん。実際には、このミステリ短編集の中の「ボーダー・ライン事件」という作品を紹介したかたちで、それが収録されている本として『窓辺の老人』と『世界短編傑作集3』を紹介していただきました。『窓辺の老人』は「ボーダー・ライン事件」の探偵役となるキャンピオン氏が登場する短編を集めたもの。対して、『世界短編傑作集3』はいろいろな作家の短編を江戸川乱歩編で収録したもので、全作品に乱歩の解説がついているのも魅力だそう。バトラーさんのミステリへの「熱い」思い入れとともに、ボーダー・ライン事件が蒸し「暑い」夜の殺人事件で、発表では殺人現場の見取り図をホワイトボードに書いての説明も。どうやら蒸し暑さもトリックに関係がありそう。
第1ゲーム一番目のバトラーさんの家にはよく野良猫が遊びに来ていて、最近よくくる猫の一匹にしっぽちゃんと名付けて気に入っている。そんなときに、本棚で『しっぽちゃん』というタイトルで、表紙の絵も猫ときたら、これはもう読むしかないと思って読んだのだそうです。ペットへの愛が熱すぎて、ときには滑稽にも見える、そんな人間とペットの関係を描いた作品とのことで、発表を聞いていると、この本だけでなく、バトラーさんの家に来るしっぽちゃんも見たくなります。でも、野良なので、そばには来るけど、体には触らせてくれないんだって。そんな関係もいいなあ。
『オン・ザ・ロード』は、発表を聞いていてよくわからないところがあり、むしろそこを読んでみたいと思って、私自身はこの本に投票しました。主人公は作家でもある大学生で、自分たちのことを「退屈な知識人」と呼んでいる。そこが読んでいて鼻につく面もあるそうなのですが、その主人公と友達が旅に出て、みじめな状況に陥ってもずっと旅をし続ける。その旅への「熱い」思いは、まるで芭蕉の「そぞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず」を連想させる様子だそう。私には、「退屈な知識人」がそれほどの「旅への情熱」を持つのが想像できず、どういうことなのか読んでみたいと思いました。
第2ゲーム一番手の『君たちはどう生きるか』が物語のかたちをとった哲学書で、これを小説ではなく哲学書と捉えれば、第2ゲームは第1ゲームと真逆の「小説以外の本によるバトル」ということになりました。
チャンプ本に選ばれた『天災から日本史を読みなおす』の著者は、「武士の家計簿」や「殿、利息でござる!」などの映画の原作を書いた歴史学者で、天災が起こった時にいち早くかけつけるような人が出世するなど、天災を切り口に日本史を見ると違ったものが見えてくる。また、天災の記録を読み解いて現代の災害を生き延びる知恵とするような内容にもページを割いているそう。本の内容だけでなく、発表者さんは最近周囲の人と本の話をすることが多いそうで、この本もお母様から薦められて読んだ本とのこと。実は、この本を紹介したバトラーさんと第2ゲームの元気賞を獲得したバトラーさんはご夫婦で、そうやってご家族で本を薦めあうこと時代が素敵だと思います。どちらか一人が賞を獲るのではなく、お二人でそれぞれ賞を獲るかたちになったのも、その後の夫婦円満に繋がったかも?笑
その旦那様の方が紹介した『グリニッチ・ヴィレッジにフォークが響いていた頃』は、60年代のニューヨークでフォークが「熱かった」頃のことを、その中心にいたミュージシャン、デイヴ・ヴァン・ロンクが回想した本。発表者さんは音楽が好きでこの本を読んでいるだけでなく、発表さん自身が今の時代のなかで「熱い人」でありたい、そのロールモデルとしてこの頃のミュージシャン達を見ている面があるとおっしゃっていました。元気賞獲得も、その熱さの表れでしょう。
『君たちはどう生きるか』は、中学2年生の男の子を主人公とし、法学士である彼の叔父さんとの対話や出来事の中で、「立派な人間になるとはどういうことなのか」といったことを考えさせられる本になっているそうです。単に「何が正しいか」を教えるようなかたちではなく、「正しいと言われていることがどうして正しいのか」を自分で考えさせられるような内容だそうで、発表を聞いているうちにそういうことを考えなくなっている自分に気付かされ、私はこの本に投票しました。
『本の逆襲』は私が紹介したのですが、「本の未来は明るい」と言い切るブック・コーディネーター、内沼さんの本へ熱い思いが詰まった本。読者の「本」という概念を広げてくれるし、こんな可能性もある、あんな可能性もあるという内沼さんのアイデアを読むうちに、自分でもアイデアが浮かんできます。内沼さんの概念に従えばこの「東京図書館制覇!」も本で、『本の逆襲』を読んでいてサイトに関するアイデアもいろいろ浮かんできたので、実現させていきたいです。
この回でのバトラーさんの中には都内のあちこちのビブリオバトルに参加している方がいらっしゃって、私もいろいろなところでご一緒するビブリオバトルお友達なのですが、その方がこの回のことを「最近行った図書館バトルで一番楽しかった」とおっしゃっていたんです。実際、ビブリオバトル@江古田は、「堅苦しい図書館イベント」とは違う楽しい雰囲気に溢れています。
例えば、ビブリオバトルの歌。この歌は確か前回から始まったのですが、イベントの最初と最後に、「♪カエルのうたが きこえてくるよ」の歌詞でお馴染みの童謡・かえるの合唱のメロディにのせて、「ビブリオバトル ビブリオバトル ビ・ブ・バ・ト ビブビブビブリオバトル」と皆で歌うんです。しかも、きちんと会場を半分に分けて、輪唱する。この、子どもに戻ったような合唱一つで、とても場が和むし、一度声を出していることで質問のための挙手をするときの心理的ハードルがぐっと低くなります。
また、上でバトラーにキャンセルが1人出て、職員さんが参戦したと書きましたが、それ以外にも元々のメンバーとして職員さんが参加しています。いや、バトラーが集まらなくて仕方なく職員さんが参戦する例はいくらでもあるのですが、江古田図書館の場合は利用者と職員がともにビブリオバトルを楽しむという雰囲気が強い。実は今回の司会を務めた職員さんは、前回『DINER』を紹介して大盛り上がり、見事江古田元気賞を獲得したバトラーさん。今回江古田元気賞を獲得した『グリニッチ・ヴィレッジ~』を紹介したバトラーさんからは、「前回見に来て『DINER』の発表の盛り上がりにジェラシーを感じていたので、今日は元気賞を獲れて嬉しい」という言葉が出たくらいです。
この「江古田元気賞」設置自体も、チャンプ本に選ばれた本・発表者だけが優れているのではない、本の話をする楽しさを味わうイベントだという思いがあってこそでしょう。
首都決戦のように予選から勝ち上がってくる大会のビブリオバトルを先に知ってしまった人は、ビブリオバトルにコンテストのようなイメージを持っているかもしれませんが、公式サイトの冒頭に書いてあるように、ビブリオバトルは「本の紹介コミュニケーションゲーム」です。専門家による詳しい解説ではなく、一読者がその場で本を紹介し、質問もできることで、人を介して本を知ることができる。また、お薦めの本の話を通じて、バトラーさんの考えや趣味なども垣間見える。
図書館は特に、基本的には静かに本を読んだり借りて読む場所で、たとえ同じ図書館をよく使っている人で顔だけ知っている人がいたとしてもどんな人なのかはわからない。でも、同じ図書館を使っている人の中には、自分が返した後にその本を借りた人だっているでしょう。そうした利用者同士が本の話で仲良くなれるイベントは、これから地域コミュニティの場としての意義も問われる図書館で行うにふさわしいイベント。江古田図書館のビブリオバトルが楽しいのは、「本を紹介するイベントを開催して貸出数を増やす」のような狭い視野で行っているのではなく、「読んだ本の話ができる場を作る」という思いも込めているからではないかと思います。
こんな風に楽しいイベントなので、ご興味持った方にはぜひ参加して欲しい。そんなご興味持った方のために、イベント最後には次回予告もしてくださいました。日にちは2016年11月3日・文化の日で、テーマは「目の覚める本」。あまりの怖さに目が覚める、夢見がちな考え方をしていた状態から覚める、シャキッとした気持ちにさせられて目が覚める…などいろいろな「目が覚める」を本に結び付けることができそう。テーマとしては難易度が高いかもしれませんが、開催まで半年あるので考える時間はたっぷりあります。今回応募者多数だったことで、次回は最初から募集人数を増やすそうなので、その増やした分が無駄にならないよう、ぜひ多くの皆さんに参加して欲しいです。