ビブリオバトル@江古田 冬の陣 テーマ「おいしい本 ~本のソムリエたちが繰り広げる美食のバトル~」
visit:2015/11/03
中野区立江古田図書館では、「夏の陣」「冬の陣」と題して、年に2回ビブリオバトルイベントを開催しています。2015年11月3日に開催された2015年度の冬の陣に、私もバトラーとして参加してきました。ビブリオバトルって何?という方は、ビブリオバトル公式サイトをご覧ください。簡単にいうと、参加者が本を紹介しあい、「どの本が一番読みたくなったか」を基準に投票して、一番票を集めた「チャンプ本」を決めて遊ぶゲームです。
会場となる江古田図書館2階会議室は、大人数が集まることはできない小さな会議室なのですが、本の発表者(バトラー)だけでなく、本の紹介はしないけどディスカッションタイムと投票に参加する観覧者もいる「イベント型」ビブリオバトルの開催場所としては、むしろちょうどいいくらい。イベント型で観覧者の数が多過ぎると、何も発言しない人が出てきて、”観覧者”というより”傍観者”に多い残念な状態になってしまいがちなのですが、江古田図書館の会議室だと物理的にも発表者と観覧者の距離が近く、質問もしやすいし終わった後に他の参加者に話し掛けたりもしやすいんです。
今回のビブリオバトルは、「おいしい本」をテーマにしていて、それに沿った本の紹介を募りました。というわけで、最初の館長さんによる挨拶の次に、5名のバトラーによる「自己紹介+好きな食べ物」での簡単なご挨拶。その後、皆の前でバトラー全員がくじを引いて発表の順番を決め、最後にビブリオバトルの歌を皆で合唱して、いざビブリオバトルです。
え?ビブリオバトルの歌って何かって?この曲は、江古田図書館がビブリオバトルのために満を次して発表した曲…というほど大仰なものではなく、童謡『かえるの合唱』の替え歌です。「かえるのうたが きこえてくるよ~」のお馴染みのメロディにのせて、「ビブリオバトル ビブリオバトル ビ・ブ・バ・ト ビブビブビブリオバトル」という歌詞を、参加者を半分に分けて輪唱です。ちょっとしたことですけど、下手をすれば堅苦しいコンテストの雰囲気になってしまうビブリオバトルを楽しいゲームの雰囲気にし、更に一度声を出すことで質問への心理的ハードルが下げるように思います。
今回のビブリオバトルは「おいしい本」をテーマにしていますが、味覚としての「美味しい」に限らず、「おいしい話」などのような、都合がよいみたいな意味合いの「おいしい」ももちろんOK。テーマをどう解釈してお薦め本の紹介に結び付けるかも含めて、発表者の自由です。どんな本が紹介されたのか、下に挙げてみます。
1番手 | 『もしも宮中晩餐会に招かれたら 至高のマナー学』渡辺誠 |
2番手 | 『牢屋でやせるダイエット』中島らも |
3番手 | 『笑う漱石』南伸坊・夏目漱石 |
4番手 | ★『香菜里屋を知っていますか』北森鴻 |
5番手 | ☆『ダイナー』平山夢明 |

5冊の本のうち、ストレートに美味しい料理が出てくる小説が、『香菜里屋を知っていますか』と『DINER』。『香菜里屋~』を紹介したのは私で、ビアバー「香菜里屋」のマスターが周囲から持ち込まれる謎を解き明かすミステリなのですが、単にわからない謎を解くだけではなく、おいしい料理で意地を張ったり落ち込んでいたりする人の心を和ませてくれる、その料理の記述が本当においしそうなんです。今回チャンプ本に選ばれ、写真の表彰状をいただきまして、ありがとうございます。ただ、私の発表がどうというより、テーマに対してストレートな本を持ってきたのが勝因だったように思います。
『DINER』もおいしいハンバーガーを出す会員制ダイナーを舞台にしていますが、この会員というのがプロの殺し屋限定、主人公は究極の状況に追い込まれて死ぬよりもましとここで働くことを選んだ女性という、癖のある設定の小説です。私、投票の際にこの本に投票して、その後実際に読んでみたのですが、発表者さんがとてもさわやかな印象の若い男性、それに対して本の中身が想像以上にバイオレントで、そのギャップに驚いてしまいました。実は、こことは別のビブリオバトルでも若い男性が『DINER』を紹介するのを見たことがあり、その人も見た目さわやか系だったんです。この、「あの人がこんな本を読むんだ」という驚きも、文章上やネット上のやりとりではなく、リアルに人が出てきて紹介するビブリオバトルの面白さです。
上の表を見て何だろうと思った方もいると思いますが、江古田図書館のビブリオバトルでは、参加者全員の投票によって決まるチャンプ本のほかに、職員さんから元気な発表・盛り上がる発表に送られる「江古田元気賞」というものがあり、この回では『DINER』の発表者さんが獲得。バトラー参加を考えている人は、ぜひ元気賞も狙ってください。
食べ物がおいしいだけでなく、本当にそんなことがあったら体験自体が美味といえそうなのが、『もしも宮中晩餐会に招かれたら』でしょうか。でも、この本を紹介したバトラーさんにとっては、宮中晩餐会が絵空事の話ではなく、バトラーさんのひいおじいさまが文化勲章を受章したことがあり、その際に宮中晩餐会に招かれたときのことを聞いたことがあるのだそうです。そのときの章も持ってきてくださり、私も持たせていただきました。
おいしさと正反対と言っていいのか、好きなものを自由に食べられないからこそちょっとしたものもおいしく感じるのか、美味しさと環境の関係を考えたくなるのが『牢屋でやせるダイエット』。中島らもさんが大麻所持の罪で服役したときの体験を綴った本だそうです。基本的には麦飯の質素な食事ですが、たまにエビフライなども出るそうで、何でも自由に食べられる環境でのエビフライの味と、与えられる質素な食事を食べるしかない環境で出てくるエビフライの味は違うだろうなあ。
『笑う漱石』は、夏目漱石の俳句に南伸坊さんがイラストを付けた本。これをどうやって「おいしい」に結びつけて発表したかは忘れてしまったのですが、バトル後に見てみたら、『吾輩は~』を連想させるユーモアを感じる俳句で『笑う漱石』というタイトルにふさわしい本。もちろん、そう思わせるのは、南伸坊さんのイラストもあってこそ。思い悩む小説のイメージとは違う漱石に触れられます。
このビブリオバトルでは、最初の合唱がよかったのか、ディスカッションタイムの質問でもいろいろな話が出て、とてもいい雰囲気でした。図書館でのビブリオバトルって、普段は互いに話すことがない図書館利用者が、どんな本が好きでどう感じたかなどを話せるいい企画だと思うのですが、まさにそんなかたちで利用者も職員さんも一緒になって本の話で盛り上がれるのが楽しいです。特に江古田図書館の開催場所は小さいので、いい意味で「傍観者になれない=参加しやすい」ので、ビブリオバトルに初めて参加しようと思っている人にもお薦めです。
次のテーマも既に決まっていて、「あつい本」とのこと。今回の「おいしい」をいろいろ解釈できるのと同様に、熱い、厚い、暑い、篤い…など、いろいろな「あつい」に寄せて紹介できるテーマです。今回のバトラーさんの中には、早くもこのテーマを聞いて紹介本を決めた人がいるくらい。年に2回の江古田図書館ビブリオバトル、ご興味ある方はぜひいらしてください。