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ビブリオバトル@武蔵野プレイス 入門編

―2017年12月9日のイベント
visit:2017/12/09
§ 参加者全員が本を紹介し合うビブリオバトルイベント

武蔵野プレイスで2017年12月9日に開催された、ワークショップ型ビブリオバトルイベントに参加してきました。武蔵野プレイスでは、まず入門編として、参加者全員がバトラーとなって本を紹介するワークショップ型のビブリオバトルイベントを行い、その数週間後に、実践編として、観覧者も集まる前でバトラー数名が発表するかたちのビブリオバトルを開催するという、連続企画にすることが多く、このイベントもそのかたち。といっても、2つのイベント両方に参加する必要はなく、片方しか参加しなくても、両方参加してもOK。募集もそれぞれ個別に行っていました。

こうやって、ワークショップ型を「入門編」、観覧者の前で行うかたちを「実践編」と名付けられているのを見ると、観覧者がいるビブリオバトルが本来のやり方で、ワークショップ型ビブリオバトルをその練習だと捉える人がいるかもしれません。でも、それは全くの間違い。それぞれ別の楽しみがあり、どちらもビブリオバトルのやり方の一つです。

観覧者の前で行うビブリオバトルは、会場や機材が許す限り、たくさんの観覧者が参加できます。イベントとして大勢の人で楽しみたいという場合は、こちらの方法が適しています。一方、全員がバトラーとなるビブリオバトルでは、本の紹介を通じて全員が自分の好みや考え方を話すことになり、参加者同士の交流という点ではこちらの方が深まります。ビブリオバトル公式サイトにもあるように、ビブリオバトルは本の紹介を通じたコミュニケーションゲーム。どちらに参加する場合も、他の参加者と積極的に話すのが楽しむコツです。

§ 2グループに分かれて、それぞれバトル

会場に行くと受付にくじが用意されており、それで自分が入るグループが決まります。私が引いたのはBグループで、私を含めて5名が輪になってテーブルを囲んで座ります。今回のイベントの参加者は9名で、Aグループでは4名の参加者に主催者側の1名が加わって、5名でゲームを行いました。

ビブリオバトルをするのが初めての人は挙手してくださいの問いかけに手を挙げた人が4名いて、まずはビブリオバトルとは何かの説明から。この回には、ビブリオバトル普及委員の五十嵐さんがいらして説明してくださいました。

ビブリオバトルについては、ビブリオバトル公式サイトをご覧いただくとわかりますが、バトラーと呼ばれる参加者が5分間で本を紹介、その後参加者全員でディスカッションタイムを2~3分間行う、という流れをバトラーの数だけ繰り返し、最後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準に1人1票投票して、一番票が集まった本をチャンプ本とするゲームです。重要なのは、上にも書いたように、発表の上手さを競うゲームではなく、コミュニケーションゲームだということ。実際、図書館のイベントで一緒になった初対面の人同士なのに、一通り本の紹介をした後には、それぞれのお人柄が見えてきて、話が弾みます。

説明が終わった後は、2グループ同時にそれぞれでバトルを開始。ビブリオバトルは、発表時間は5分間と公式ルールで決まっている一方、ディスカッション時間は2~3分と緩やかで、質問が出なければ短めに切り上げたり、話が弾めば長くしたりしても構いません。ですが、このイベントでは、1つのタイマーを使って2グループ同時に行ったので、ディスカッション時間も2分で固定。その代り、次の発表者へ移る準備時間が15秒設けられていて、そこにディスカッション時間が食い込んでも構わない、というかたちで行いました。

私がいたBグループは、毎回2分15秒でやむなくディスカッション終了にしなければいけないほど、いい感じに話が弾みました。そのBグループでの紹介本は以下の通り。

1番手 『ヘンな論文』サンキュータツオ
2番手 『風葬』桜木紫乃
3番手★『キラキラ共和国』小川糸
4番手 『ほとんど記憶のない女』リディア・デイヴィス
5番手 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』伊藤亜紗
★がチャンプ本

『ヘンな論文』を紹介した女性はラジオをよく聴くそうで、TBSラジオ「荒川強啓デイキャッチ」でサンキュータツオさんが面白い論文を紹介しているのを聴いて、この本を読んでみたそう。例えば、公園の斜面に座るカップルの距離を観察してまとめた論文があり、それは飲食店での席の配置など空間作りに役立つ研究なのですが、論文自体はヘンなことを追及している感じで、そういった研究者の真面目さと傍目からみた「ヘン」さのギャップが面白い。ディスカッション時間では、本の内容はもちろん、4番手さんと私もラジオをよく聴くということで、ラジオの話も弾みました。

2番手は私で、この頃桜木紫乃さんにハマっていたので、桜木作品全体の話もしつつ、直近で読んだ『風葬』を紹介。主人公の出生に本人も知らない秘密があり、その秘密を探そうとする中での物語なのですが、3番手さんが紹介した『キラキラ共和国』も同じように、主人公の母親が誰かわからないという設定だそう。そうやって設定に似た点があるのに、『風葬』は暗い雰囲気、対して、『キラキラ共和国』は明るくほんわかとした内容とのことで、そんな2作が続けて発表することになった偶然も面白い。ちなみに、発表順はバトル前にじゃんけんで決めました。『キラキラ共和国』は主人公の仕事が代筆で、手書きの文字が印刷されたページを開いての発表に、皆身を乗り出して本を覗いていました。

4番手の男性が紹介したのは、イベント当日時点で70歳であるアメリカ女性作家の『ほとんど記憶のない女』という短編集。新書サイズで、厚さも一般的な新書版程度なのに、掲載されている短編は51編もあり、中には1ページで完結する短編もある。いや、もっと言うと、この記事を書いている時点で私の手元にある単行本(四六判で、新書版よりは1行文字数が長いだろうけど)では、3行で終わっている短編もあるんです。その不思議なタイトルと、出版社が白水社ということから、ディスカッション時間に私が「フランス人作家の作品かと思った」と言うと、著者はフランス文学の翻訳家でもあるそうで、更にポール・オースターの元奥さんと教えていただき、何だか納得。他の参加者さんからは「ニコルソン・ベイカーっぽい感じかなという気がする」という言葉も出て、そちらも読んでみたくなりました。

Bグループのトリを飾ったのは、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』という、こちらも新書本。まず、タイトルに2つ入っている「見る」という言葉の二重性(視覚で「見る」ことと、捉えるのような意味の「見る」)に考えさせられ、中を読んでますます「見る」とは何かということを考えさせられたそう。発表者さんが話のなかで、視覚障害者とつくる美術鑑賞(視覚障害者と晴眼者が一緒に美術館を回り、晴眼者が言葉で作品を説明、それに対して視覚障害者も質問したり感想を言ったりして、一緒に美術鑑賞する企画)のことに触れていたので、このイベントが終わった後、5番手さんを呼び止めて、私が参加した、墨田区立ひきふね図書館開催の「晴眼者と視覚障害者がグループになって巡る図書館ツアー」 (同じかたちで、一緒に図書館の中を回り、晴眼者がここには何があってどんな様子だと説明する企画)の話をし、更に2人で盛り上がってしまいました。

全員の発表が終わった後は、いっせいのせで本に指を差しての投票を行い、3番手の『キラキラ共和国』がチャンプ本に選ばれました。でも実際、一つに絞るのが難しいくらい、全部の本を読みたくなりました。

ちなみに、私がいなかった方のAグループの紹介本も聞いておいたので、そちらもご紹介します。こちらは順番はわからないので、順不同の紹介本リストになります。

 『星への旅』吉村昭
★『わたしの心のなか』シャロン・M・ ドレイパー
 『雪の夜の話』(太宰治全集の中の1編)
 『イスラームから考える』師岡カリーマ・エルサムニー
 『君たちはどう生きるか』(私の記憶では漫画版だったと思うけど、違うかも)
★がチャンプ本
§ バトル後も話が尽きず

ゲームが終わった後、話し足りない人は引き続きどうぞと、会場を使わせていただき、その後も本にまつわる話で盛り上がりました。

Bグループでは、図書館で借りた本を持ってきたのが、確か私だけで、そのほかの皆さんはご自分の本を持ってきての参加。その中で『キラキラ共和国』を紹介した方が、帯をかけたまま薄い透明のカバーをつけて、きれいな状態を保てるようにしていたんです。そこから、買った本の扱い方の話になり、書店のカバーをかけた状態のまま、本の背にあたるところに書名をテプラで貼って本棚に入れるという人がいたり、そうかと思えば、本はきれいな状態を保とうとするより何度も読んでこなれた状態になっているのがいいという意見も出たり。

また、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』を紹介した方が、立川のジュンク堂で、平凡社が筑摩書房の本を紹介し、筑摩書房が平凡社の本を紹介する企画をしていて面白かったという話をしてくださり、そこから書店の話に。代官山蔦屋のコンシェルジュ・間室道子さん、日暮里にあるパン屋の本屋など、もっぱら図書館利用の私は、知らないことをたくさん教えていただきました。このとき出た、三鷹市には水中書店などのいい古書店があるのに、武蔵野市にはこれという書店がない。どなたかいい書店を知りませんか、という質問に、結局誰も答えられなかったのですが、どなたかこの記事を読んだ人で武蔵野市のいい書店をご存知の方がいたら、ぜひ教えてください。

あれやこれやで話が尽きず、私は参加者の中で一番最後に部屋を出たのですが、気付いたらイベント終了予定時刻を45分も超えておしゃべりしてしまいました。ご一緒した皆さん、武蔵野プレイスさん、ありがとうございました。

振り返るに楽しい時間でしたが、冒頭にも書いたように、ワークショップ型を「入門編」、大勢の観覧者の前で行うかたちを「実践編」とする、前者が後者の前段階かのような名前や日程は改めてくれたらと思います。全員が本を紹介するワークショップ型は、ほとんどの人が何も発言しないまま帰ることになる観覧者多数型と比べて、参加者がより深く交流できるイベント。単なる図書館ではなく、創造や交流を生み出す施設と標榜している武蔵野プレイスなら尚更、交流イベントとなるいい企画を開催して欲しいです。今後の武蔵野プレイスの企画に期待しています。