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なかまちテラス de ビブリオバトル(2016年)

―2016年5月15日のイベント
visit:2016/05/15
§ 第2回となる「なかまちテラス de ビブリオバトル」

2016年5月に開催された、第2回となる「なかまちテラス de ビブリオバトル」にバトラーとして参加してきました。仲町公民館と仲町図書館が融合した「なかまちテラス」では、毎年5月に「なかまちテラスまつり」を行っており、去年に続いておまつりの1イベントとして、小平図書館友の会と小平市立図書館主催のビブリオバトルが開催されました。

会場となる地下1階のホールに行ってみると、見覚えのあるお顔がちらほら。7名いる今回のバトラーのうち、4名が2015年のなかまちテラス de ビブリオバトルでご一緒した方でした。事前にくじびき・ジャンケンでグループ分けと順番決めをするために、バトラーは開催時間より早く集合するのですが、この時点でお互いの紹介本を明かして、早くも本についての話に花が咲いていました。

バトラーが本を紹介した後、その場にいる参加者全員で「どの本が一番読みたくなったか」を基準に投票をし、票が最も多かった本を「チャンプ本」に選ぶのがビブリオバトルですが(詳しいルールは、ビブリオバトル 公式サイトをどうぞ)、殺伐と戦うものではなく、ゲーム性を楽しみながら本の話で盛り上がれるコミュニケーションゲームなんです。なので、バトラーが集まるテーブルでは、「ふだんはどんな本を読んでいるのか」「あの本は読んだか」など、本を中心にいろいろ話題が広がります。今回バトラーの中には「本気でチャンプ本を狙います」と宣言していた方もいましたが、その方も含めて和気あいあいと過ごすうちに、開催時刻を迎えてビブリオバトルスタートとなりました。

ビブリオバトルには、参加者全員が本を紹介するかたちと、多数の観覧者の前で数名のバトラーが本の紹介をするかたちがあり、なかまちテラス de ビブリオバトルは後者の方式です。今回は7名のバトラーを2つに分け、4名のバトラーで第1ゲーム、10分の休憩を挟んで、3名のバトラーで第2ゲームを行いました。高校生2名と大人5名をジャンケンでグループ分けしたところ、高校生2名が両方とも第1ゲームへ。また、結果的に第1ゲームは全て小説、第2ゲームは小説とそれ以外の本が混ざるラインナップとなりました。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手★『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』 『「私の履歴書」―昭和の先達に学ぶ生き方』
2番手 『ルリユール』★『ライディング・ザ・ブレット』
3番手 『猟銃・闘牛』 『プレイボーイの人生相談―1966‐2006』
4番手 『新編 銀河鉄道の夜』
★がチャンプ本

第1ゲームは、最終的な結果としては『冒険者たち』がチャンプ本に選ばれましたが、最初の投票では『冒険者たち』と『ルリユール』が同票で1位となり、この2冊だけで決戦投票をして『冒険者たち』がチャンプ本になりました。『冒険者たち』を紹介した高校生の女の子は、小学校低学年のときに初めて読んだ小説がこの本で、これまでに何度も読み返しているそう。小学校低学年にはやや長い物語ですが、それでも読んで大好きになったくらい惹き込まれたのが伝わってきます。

決選投票で惜しくも敗れてしまった『ルリユール』を紹介したバトラーさんも女子高生で、この本に限らず村山早紀さんの作品が大好きだそう。『ルリユール』は本を修復する造本師を巡る物語ですが、技術的なことより、直したい本を持ってくる人の思い出などに焦点をあてていて、温かい気持ちになれる作品とのことです。この本、家に帰ってから検索して文庫本も出ていると知りましたが、バトラーさんが持ってきていたのは単行本で、そちらの方が表紙も素敵。文庫本が出た後にも単行本があり、好きな方を借りられるのが図書館の良さだと思いますが、単行本で読みたいと思わせる本でした。

『銀河鉄道の夜』は言わずと知れた宮沢賢治の作品ですが、発表者さんは少し前に参列したお葬式でのお坊さんとの会話にからめて、仏教における輪廻からの解脱という視点でこの作品を解説してくれました。「読みたくなった本」という基準で投票するビブリオバトルでは、既に読んだことがある本でも発表を聞いてもう一度読みたくなればそれが「読みたくなった本」なのですが、こうしてバトラーさんによる解釈を紹介されると、「その視点では読んだことがなかったな、その視点で読み解いたらどうだろう」という気になります。

『猟銃・闘牛』を紹介したのは私で、3編収録されている短編のうち、妻・愛人・愛人の娘という3人の女性の手紙で構成された「猟銃」を中心に紹介しました。こうして紹介本をふりかえると、子どもも読める世界観の物語のなか、私の紹介本だけが大人の複雑な心境を描いた作品に。投票のときにはバトラーの女子高生が2人とも『猟銃・闘牛』に挙げてくれたのですが、思わず後で「『冒険者たち』とは本当に違う世界だからね」と念押ししてしまいました。

第2ゲームのチャンプ本に選ばれた『ライディング・ザ・ブレット』はスティーブン・キングの作品で、このビブリオバトルの後に私も読んでみたのですが、予想以上に面白い本でした。読み終わってからビブリオバトルでの紹介を振り返ると、紹介者さんは興味を惹くように話しながらも、肝となる部分をばらさずにいてくれたことがわかります。ここで私が内容を説明してしまうと、肝をばらさなかった絶妙なバランスが崩れそうなので書きませんが、このビブリオバトルに参加して、「この本はこういう内容なんだろう」と想像がついた気になっている人にこそ、ぜひ読んで欲しいです。

「私の履歴書」は、1ヶ月で1人の著名人の半生を描くかたちで日本経済新聞で長年連載されている読み物で、毎日欠かさず読んでいる人も多いと思います。今回のバトルで紹介された『私の履歴書』は、日本経済新聞の元論説委員である著者が、これまでの「私の履歴書」のなかからこれぞという方を選んで、その生き方を紹介した本。図書館には新聞の縮刷版もあるので、この本でもっと知りたいと思った人がいたら、その方が連載していた月の縮刷版にあたるという楽しみ方もできますね。ただ、残念ながら仲町図書館には日経新聞縮刷版はなく、小平市だと中央図書館、号によっては喜平図書館でも所蔵しているようです。

最後のバトラーさんによる『プレイボーイの人生相談』も連載を本にしたもので、雑誌「プレイボーイ」で読者からの人生相談に著名人が答える連載をまとめており、本の厚みに40年間の歴史を感じます。バトラーさんは持ってきたものの女性受けするかどうかとおっしゃっていましたが、少なくとも私は雑誌「プレイボーイ」は読まないけど、この本は面白そうと思って投票の際はこの本に入れましたし、自分で本選びするだけでは知りにくい本を紹介してもらえてよかったです。バトラー同士で話していたときには、「女性だったら、松田聖子が回答役になったら、他の人にはない回答をしそう」という話も出て、本当にあったら読んでみたいです。どこかのメディアでそういう企画をしてくれないかなあ。

なかまちテラスdeビブリオバトル2016参加賞

それぞれのゲーム後には、チャンプ本獲得者に表彰状が贈られました。チャンプ本を逃したバトラーにも、それよりひとまわり小さな参加賞の表彰状が贈られ、それがこの写真です。左上の可愛いロゴマークは、小平市内にある大学・武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科の学生さん達がデザインしたマーク。駅からなかまちテラスまでの通り道にところどころで現れる看板にも、このロゴマークが使われています。

ちなみに、この場所での2回目のビブリオバトルで、去年に引き続き参加したバトラーさんが、前回とジャンルの違う本を選んだのが多かったというのも興味深いです。前回『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』を紹介したバトラーさんが今回『ルリユール』を、『孫悟空の誕生―サルの民話学と「西遊記」』を紹介した方が『銀河鉄道の夜』を、『つながる図書館』を紹介した方が『私の履歴書』を、私は前回『僕は、字が読めない。 読字障害(ディスレクシア)と戦いつづけた南雲明彦の24年』で今回が『猟銃・闘牛』。皆さんの読書の幅広さにも刺激を受けました。

§ おまつりの賑わいとマッチするイベント

どの本も面白そうで、また「読みたい本リスト」が積みあがってしまったと嬉しいような辛いような気分とともに、ビブリオバトルが終了。単発で行われる図書館でのビブリオバトルだと、盛り上がった会場から図書館内に入るのに、静かにしなければとトーンを落とすのですが、この日はなかまちテラス全体がおまつりでサークル活動の発表やイベントで賑わっており、楽しいテンションのまま会場を後にしました。

ビブリオバトル後に建物の中を回っていたら、観覧者として参加していた方がお声を掛けてくれて、私の紹介本を読んでみたいとおっしゃっていただきました。お祭りで賑わっていたというのもありますが、公民館と図書館が融合したなかまちテラスは、静かにすべしの図書館とは少し違って、建物内での会話も生まれやすい。お声掛けいただけたのは、なかまちテラスの雰囲気も影響しているように思います。

なかまちテラスは1階にお茶ができるテラスがあり、ビブリオバトル後にそのテラスで他のバトラーさんと更に話ができたのも楽しかったです。私が紅茶を飲もうとテラスに行ったら、『私の履歴書』を紹介したバトラーさんがいたので声を掛けて話していて、そこに『ライディング・ザ・ブレット』を紹介したバトラーさんも加わって、バトル内では聞けなかった紹介本の詳しい話や、バトルでの紹介本以外のお薦め本の話などで盛り上がりました。私は、ビブリオバトルが目的ではなく、ビブリオバトルを手段として参加した人が知り合い交流することこそが目的だと思うのですが、このときもそういう時間を過ごすことができました。

なかまちテラスは図書館部分と公民館部分が融合している設計で、従来の「静かに本を読む場」「住民が集って活動する場」という図書館・公民館の役割を融合させた使い方を提案している建物だと思うのですが、本を通じてこの日初めて会った人とも話が弾むビブリオバトルはまさにこの建物にふさわしいイベントだと思います。もし次になかまちテラスに来たとき、私が読んだ本の紹介者さんに会えたら、感想をお伝えしたいし、そうやって声を掛けやすい雰囲気がこの建物にはある。ご一緒した皆さん、主催した小平図書館友の会さん、小平市立図書館さん、ありがとうございました。