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なかまちテラス de ビブリオバトル(2015年)

―2015年5月17日のイベント
visit:2015/05/17
§ なかまちテラスまつりのイベントの一つとしてビブリオバトル開催

小平市の「なかまちテラス」は、妹島和世さんが設計した奇抜なデザインで知られている、仲町公民館と仲町図書館の併設施設。その、なかまちテラスで、2015年5月16,17日の2日間「なかまちテラスまつり」が行われ、いろいろなイベントが開催されました。そのなかで開催された「なかまちテラス de ビブリオバトル」に私も参加し、とても楽しく、そしてこうした地域イベントの意義も再認識させられ、いい時間を過ごしました。

このイベントは、図書館だけの主催ではなく、小平図書館友の会と小平市立図書館の主催というかたちをとっており、バトラーやスタッフ側にも小平図書館友の会の方がいらっしゃったのですが、まずこの方々との話が楽しかった。私はバトラー参加をしたので、イベント開催より早く集まって順番決めや段取り説明を受けたりしたのですが、それが済むと待ち時間ができる。そこで、地元の皆さんがなかまちテラスのことを紹介してくださったのですが、この注目を浴びている建物に対して、わりと文句もおっしゃるんです。

ただ、その文句も皆さんニコニコしながらで、「とにかく、ビブリオバトルが終わったら、ぜひ建物の中を見てくれ」とおっしゃる。これは私の印象ですが、ダメなところも含めて可愛い我が子のことを話しているような、聞いてて嫌な気がしない、むしろ、何やかんや言いながらなかまちテラスを利用して楽しんでいる様子が伝わってきました。実際、このなかまちテラスまつりも、建物の入口からビブリオバトル会場である地下の部屋まで辿り着くまで、混雑をかき分けて進んできたくらい、大盛況でした。

§ イベント型ビブリオバトルを2ゲーム開催

ここでのビブリオバトルは、多数の観覧者の前で数名の発表者(バトラー)が本の紹介をするイベント型で、4人のバトラーによるゲームを2回に分けて行いました(ビブリオバトルがわからない方は、ビブリオバトル 公式サイトをご参照ください)。

バトラーとなったのは、ふだんからなかまちテラスに入り浸っている(とご本人が言っていた)女子高校生から、地域にお住いのご年配の方、私のように他の地域から来た図書館好きの方など様々で、紹介本もバラエティに溢れていました。先に、発表本とバトルの結果を紹介しましょう。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『10月はたそがれの国 『数学ガールの秘密ノート 整数で遊ぼう
2番手★『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方 『僕は、字が読めない。 読字障害(ディスレクシア)と戦いつづけた南雲明彦の24年
3番手 『つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み 『小説日本通史 時の旅人 二の巻 聖徳太子の密使
4番手 『孫悟空の誕生―サルの民話学と「西遊記」★『ムーミンパパの思い出
★がチャンプ本

『つながる図書館』の紹介者さんは、なかまちテラスという、図書館と公民館の「併設」というよりは、図書館と公民館の境目が曖昧で「混合」しているような場所での、ビブリオバトルという、参加者同士が交流できるイベントで紹介する本と言ったらこれしかない!と、この本を持ってきたのだそう。実際、おまつりは盛況だったし、上で書いた<文句を言いながらも楽しそうに話題にする>感じも、無難な施設よりかえってコミュニティの場になっているように思います。

『学校では教えてくれない~』と『数学ガールの秘密ノート』を紹介したのが、ともになかまちテラス常連の女子高生だったのですが、『数学ガールの秘密ノート』の紹介者さんが緊張しすぎて、待ち時間も傍で見ていて面白いくらいテンパっていて、でもそこがとても可愛らしかったです。発表順に座ると私の隣になるので、待ち時間などになかまちテラスの話を振ると、緊張しながらも「なかまちテラス、大好き!」という気持ちいっぱいに話してくれて。発表の際にはホワイトボードも活用して本の中身を紹介していて、残念ながらチャンプ本は逃しましたが、好きなものへの思いの熱さが感じられました。

対して、そのお友達の『学校では教えてくれない~』の紹介者さんは、落ち着いた発表ぶりで見事第1ゲームのチャンプ本に選ばれました。この本では、いろいろな出版社が出しているさまざまな国語辞典を人間に摸してキャラクター付けするなど、それぞれの国語辞典の個性を案内しているのですが、図書館の複数の辞書を揃えているところでこうした本を紹介してもらうと、その後に実際の辞書を見比べられる。これは図書館でのビブリオバトルのよさ(紹介本や関連本がその場にある)の一つです。

第2ゲームでチャンプ本に選ばれた『ムーミンパパの思い出』の紹介者さんは、大人になってムーミンのような架空の世界を読む面白さをお話ししてくださいました。私の記憶に間違いがなければ、この方が持ってきた版は1990年に講談社から出版された単行本の版で、新しいものを次々紹介するメディアの情報では巡り合えない古い版を知ることができるのも、商売が絡まないビブリオバトルのよさだと思います。発行年の古さで上回るのは、レイ・ブラッドベリ『10月はたそがれの国』。日常の中の怖さを描いた短編集だそうで、こちらも面白そう。

発表がユニークだったのは、『孫悟空の誕生』の紹介者さん。発表の5分が過ぎて質疑応答時間に入ると、自分で自分に質問し、それに答えるかたちで発表を続行(笑)。厳密に言うとビブリオバトルのルールに違反していると思いますが、5分の合図を無視して話続けるのではなく、一応自分で自分に質問するというかたちを取るところが微笑ましい。この方は海外の図書館にも行った体験があるそうで、待ち時間に私が東京の図書館を回っていると知り、そこでの話を聞かせていただきました。

ユニークと言えば、このビブリオバトルでは本名とは別のバトルネームで発表することができ、私は普通に本名でエントリーしたのですが、『小説日本通史』の紹介者さんは「森郊外」というバトルネームでエントリーしていました。このバトルネームで、森鴎外の著作ではなく、内容も森鴎外とは関係ないという、少し斜に構えたひねりが素敵です。

§ 図書館が全ての人に開かれた場であることを実感

実は、今回のバトラーの中には、身体に麻痺があって発音がやや不自由な方がいらっしゃったんです。でも、観客の皆さんがそれを補うようにしっかり聞き取って、質疑応答タイムにも質問が出た。私は待ち時間などでもこのバトラーさんとお話したのですが、いろいろなことに積極的な感じの方で、とても刺激を受けました。

この日私が紹介した本が『僕は、字が読めない。 読字障害(ディスレクシア)と戦いつづけた南雲明彦の24年』なのですが、その内容は、障害を抱えて、しかもそれがまだ広く知られている障害ではないために、ご自身が障害だと気が付くのにも時間がかかり、とても苦しんだ、そんな南雲明彦さんをライターさんが取材してまとめたものです。この南雲さんは、障害を抱えている人に限らず、生きづらさを感じている人をその苦しみから開放すべく、講演や相談できる場の提供などをしているのですが、その「生きづらさを感じている人誰も」という視野の広さに、読んでいてとても感銘を受けたし、勉強になりました。

その点でいうと、公民館や図書館も、障害を持つ方を含めてあらゆる人が、情報を求めているとき、読書を楽しみたいときに利用する場所で、イベントにもあらゆる人が参加できます。「なかまちテラス de ビブリオバトル」では、それが建前でなく、実際に発音に難のある方もバトラーとして参加し、観覧者もその方の発表をしっかり受け取っていた。それを体験できたのがとても気分よく、南雲さんの本の内容も加わって、いろいろな方が平等に暮らしていける社会へ進んでいると思える(もちろん、まだ解消すべき差別はたくさんあるとは思いますが)、いい時間でした。

ところで、私はずっと、ビブリオバトルでどんな発表があったかだけでなく、待ち時間などに話したことも含めて書いていますが、それはこうしてビブリオバトルを通じていろいろな人とお話できることこそがビブリオバトルだと思うからです。ビブリオバトルは本の発表が上手な人を選ぶコンテストではありません。公式サイトに「本の紹介コミュニケーションゲームです」と書いてあるように、本の紹介を通じて自分の好みや考え方を交えながらいろいろな方と話ができるのがビブリオバトルの楽しさです。この文章で、その楽しさが伝われば嬉しいです。

さて、この「なかまちテラスまつり」「なかまちテラス de ビブリオバトル」は、恒例行事ということになるのかな、少なくとも2016年は5月14,15日に「なかまちテラスまつり」が、そのイベントの一つとして5月15日に「なかまちテラス de ビブリオバトル」が開催されます。観覧は当日先着順で、2015年のときは、第1ゲームのときはまだ少し空席がありましたが、第2ゲームのときはほぼ満席だったので、立ち見ではなく座ってゆったり観覧したい方は早めに会場に入ったほうがいいと思います。興味のある方なら「誰でも」参加できるビブリオバトルをぜひ楽しんでください。