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第1回 ビブリオトーク・インターナショナル・オオクボ

―2025年10月26日のイベント
visit:2025/10/26

新宿区立大久保図書館がある大久保地域は、新宿区が発行している令和5年度 新宿区多文化共生実態調査 報告書によると住民基本台帳人口における外国人比率が23.4%で、外国人の居住者が多い新宿区の中でも特に割合が高い地域です。その特性に応じて、館内に外国語数種類の案内があったり、外国語図書として幅広い言語の図書を揃えるなど、多文化に応じた図書館サービスをしています。2014年から行っていたビブリオバトル・インターナショナル・オオクボは外国人と日本人がバトラーとなって日本語で本を紹介するビブリオバトルで、私も何度か参加しました。

今年も開催するのかなと思って新宿区立図書館ウェブサイトを見たら、2024年まで行っていたビブリオバトル・インターナショナル・オオクボを2025年からはビブリオトーク・インターナショナル・オオクボとして少し装いを変えた本の紹介イベントをするとのこと。さっそく私も本を紹介する人として申し込み、当日参加してきました。

皆で輪になって本の紹介

会場に着くと椅子が円のかたちに並んでいます。まずは本を紹介する人6名でじゃんけんをして、勝った人から好きな順序を選ぶかたちで話す順序を決定。その後、紹介する人も聴きに来た人も区別なく好きな席へ着いて輪になって座ります。最初に決めた順番通りに、3~5分で本の紹介→その後にその本に関する質問タイム を繰り返しながら紹介した本を輪の中心にあるテーブルに置いていき、最後に参加者同士で自由に話す懇談タイムという式次第でイベントを行いました。

紹介本リスト
1冊目 教えてゲッチョ先生!雑木林のフシギ』盛口満
2冊目 こいぬのうんち』文:クォン・ジョンセン、絵:チョン・スンガク
3冊目 世界名画全集 別巻 北斎 富嶽三十六景
を紹介するつもりが
徳川慶勝 知られざる写真家大名の生涯』徳川美術館
4冊目 ドナウの旅人』宮本輝
5冊目 日本人の心がわかる日本語』森田六朗
6冊目 BUTTER』柚木麻子

最初に紹介された『教えてゲッチョ先生!雑木林のフシギ』は博物学者の著者が雑木林にいる生きものについて書いたコラム集。今の日本でよく見るチャバネゴキブリは江戸末期に日本に入ってきたそうで、外来種によって生態系が変わるということがゴキブリの世界でも起こっていることに驚きました。質問タイムにこの本を読んでゴキブリに対する好感度が上がったかと聞いてみたところ、ゴキブリも頑張って生きているんだなとは思うけど見つけたら殺してしまうとの回答に、そりゃそうだと頷いてしまいました。

次に紹介された絵本『こいぬのうんち』は、1937年に東京で生まれて終戦後に韓国に帰国した絵本作家・クォン・ジョンセンさんの作品。紹介者さんは高麗博物館に関わっていて、韓国の絵本をいろいろ見ているなかでもクォンさんのおはなしが一番好きだとのこと。私はお話を聞いて初めて高麗博物館という施設の存在を知ったのですが、場所は大久保図書館から西武新宿駅方向に向かって600mほど行った辺り、ウェブサイトによると「市民がつくる日本とコリア交流の歴史博物館」とのことで、大久保が多文化に溢れる地域であることをあらためて感じました。

3冊目の紹介者さんは『世界名画全集 別巻 北斎 富嶽三十六景』を紹介するつもりが、本を持ってくるのを忘れて、『徳川慶勝 知られざる写真家大名の生涯』を紹介。読書家の人は紹介本以外にも本を持ち歩いていて本を忘れたとしてもこんなことができるわけで、素晴らしい。お話の内容が徳川慶勝から昔の日本、昔の新宿へと繋げるような内容だったので、質問タイムのときにもし知っていたら今大久保図書館があるここは昔どんな様子だったのかを聞いたところ、馬糞が流れて来ることで知られていた川が通っていたと。館長さんからも思わず、1冊目のゴキブリの話からここまで何だか(不浄なもので)話が繋がっているような気がするという呟きがこぼれました。

4冊目はがらっと変わって、長編小説『ドナウの旅人』。母親と若い愛人、娘とドイツ人の恋人の4人という組み合わせでドナウ川を辿る旅をする小説で、上下2巻の長い小説だけど新聞連載ということもありところどころで盛り上がりがあって飽きず、長く入院する人の差し入れ本にしているそう。令和の今、冷戦下のヨーロッパの様子が感じられる小説としても面白いとのことでした。

5冊目は今回唯一の外国人紹介者さんである中国人留学生が紹介する『日本人の心がわかる日本語』。例えば日本人に何かを勧めたときの返事としての「ちょっと考える」は柔らかい否定であることなどは純粋に言語を勉強するだけでなくこうした本を読まないとわからないという話に納得しました。懇親会タイムのときにこの紹介者さんと話したときには日本にも中国にも礼儀があるけど日本の礼儀と中国の礼儀は違うという話が出たりして、相手の文化を知らずしては理解が難しいと考えさせられました。

6冊目は私が柚木麻子さんの小説『BUTTER』を紹介。首都圏連続不審死事件をモチーフにして、イギリスの文学賞を受賞した作品ですが、5分で紹介するのは難しかった。でも、これから読む人がいたら全てを紹介しつくさない方がこの先どうなるんだろうという楽しみを持って読めるはず(ということにしよう 笑)。

自由に皆で話す懇談タイム

本の紹介→質問タイム が終わった後は懇談タイムです。紹介された本を手に取ってみたり、紹介した人と本の話をしたり、そこから派生して話が広がったり…と、20人弱くらいの参加者同士が自由に話して盛り上がりました。

『BUTTER』の紹介者としては、懇親会の時間で「私も読みました」と声を掛けてくれた人が2名とも女性(全体の参加者は男女半々くらい)だったことに、やはりこの本は女性読者が多いのかもと感じました。柚木さんは女性同士の面倒くさい関係などをよく題材にするので元々女性読者が多いように思いますが、婚活サイトで知り合った男性が次々と不審死する事件をモチーフにしたこの作品は更に女性読者が多いのかもしれません。男子大学生の1人が読んでみたいと言ってくれて、男性側の感想もぜひ聞いてみたいところ。

また、私にとってはさまざまな世代の人と話す時間でもありました。今回のイベントには、多文化交流などをテーマにしている帝京大学のゼミの学生さんたちが半分スタッフ半分参加者的なかたちで関わっていたのですが、話をした感じでは首都圏連続不審死事件についてリアルタイムで知っている感覚は持っていない様子で、今大学生である世代にとっては確かにそうだろうと。一方、 『徳川慶勝~』の紹介者さんに懇談タイムで更にいろいろな新宿の昔話を聞くと、私にとっては本で読むなどして知った昔のことをリアルに見聞きしたこととして知っている。

更に言うと、このイベントの会場が大久保図書館のワンフロア上にあたる大久保地域センターの1室で、この日大久保地域センターの壁いっぱいに地域の人から情報を募って手作りしたと思われる大久保地域の昔の地図や、昔の写真、思い出コメントなどが展示されていたんです。その思い出コメントの中に「二二六事件の日に外に出るなと言われた」というのがあり、私にとっては歴史の教科書の中にある遠い昔の出来事としか思えないことを自分の思い出として語れる人がいるのかと驚かされました。それらを合わせて、それぞれの世代で何がリアルタイムで何がそうでないかが違う(ずれている)様子を体感したような感じで面白かったです。

そうやっていろいろな人といろいろな話をしているうちにこの会場を使える時間の終わりが近づいてきて、最後は皆で会場を片付けて終了。ご一緒した皆さん、楽しい時間をありがとうございました。

外国人の方、ぜひ来年!

多文化図書館サービスを行っていることで知られる大久保図書館のイベントとして興味を持ってこの記事を読んだ人がいたら、外国人の紹介者が1人、私の見立てではこのイベントに参加していた外国人は彼女自身と彼女のそばにいることが多かった人の2人だけだったと思いますが、もっと多くの外国人参加者がいることを想像して読んでみたらそれほどでもなく拍子抜けしたかもしれません。

でも、振り返れば、ビブリオバトル・インターナショナル・オオクボも第1回は参加者が日本人だけでした(その代わり、というわけではありませんが、紹介された本が、日本の本2冊、外国の本が2冊で、それはそれでなかなか知ることができない本を知って面白かった)。私は(私の記憶が正しければ)第1回から第5回まで毎回参加したのですが、回を重ねるうちに日本語学校の生徒さんや近所の飲食店で働いている外国人も紹介者として参加するようになって、私自身も他の参加者さんと一緒にその飲食店に流れ込んだりして、まさに「本を通じて多文化交流ができる場」となっていました。

コロナ禍が収束してきてイベントに参加しやすくなったこれから、またあの頃のように多文化交流ができる場となったらと願います。というか、きっとなるでしょう。館長さん曰く、多少日本語を話すのが難しい外国人の方でも参加しやすいように、5分ぴったり話すビブリオバトルではなく、緩く話せるビブリオトークにしたとのこと。もちろん本の紹介はしないで聴きに来るだけの参加も可能で、その場合は事前申し込み不要で会場に行けばOKです。おそらくこれからも毎年10月に開催すると思うので、興味を持った外国人の方は来年以降にぜひいらしてください。