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第3回ビブリオバトル 夏目漱石編

―2012年7月8日のイベント
visit:2012/07/08
§ 図書館でのビブリオバトル

知的書評合戦「ビブリオバトル」ってご存知ですか?詳しくは公式サイトを御覧になるとよくわかりますが、公式ルールを引用すると

  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる.
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する.
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う.
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする

というゲーム。今回の本郷図書館のように、発表者数名と観覧者がいるパターンもあるし、参加者全員が発表者というパターンもあり。どちらの場合も、発表者は自分以外の誰かに投票します。本郷図書館では、これまでに何度かこのビブリオバトルを開催していて、私も行きたかったものの都合が合わずこれまで行けずにいたのですが、第3回のこの回をついに見ることができました。

第3回は夏目漱石をテーマにしたビブリオバトルで、夏目漱石の著作や夏目漱石を扱った本が対象です。冒頭の館長さんの挨拶によると、第2回のテーマが森鴎外だったのですが、このときのアンケートで「森鴎外をやったら、次は夏目漱石を」という声がとても多かったのだそうです。私もどちらかというと、鴎外より漱石好きなので嬉しい。

今回の発表者は7名で、バトルは3名と4名で2部に分けて、それぞれで投票します。確かに、7名の発表を通して聞いたら、投票する頃には最初の方の発表を忘れていそうですし、この辺はさすがに運営がこなれていますね。そう、今回(そしてこれまでのそうだったよう)のビブリオバトルは、ビブリオバトルを推進している紀伊國屋書店の方が司会を務めていらっしゃいました。本郷図書館は、指定管理業者としてヴィアックスと紀伊國屋書店の共同事業体が運営を受託しているので、そのつながりをイベントにも反映しているんですね。といっても、もちろんビブリオバトル自体は、誰がやっても構いません。

また、上の公式ルールと違うところは、発表の後は質問タイムとして5分間用意されていること。これも、観覧者がたくさんいる場合は、ディスカッションより質問タイムの方がいいのかもしれません。細かいルールは、それぞれの場に合わせて応用できるんですね。

§ 皆さんのお薦め本は…

発表者の方々が推薦してくれた本は、『草枕』『三四郎』『書簡集』『こころ』『漱石全集 月報』『漱石が聴いたベートーヴェン』『漱石と異文化体験』というランナップで、前の3冊が第1部、後の4冊が第2部で紹介されました。面白かったのが、もともと好きな本を紹介した人もいれば、今回のビブリオバトルをきっかけに読み直したり、中には手元においていたのにずっと読んでいなくて、バトル当日の朝まで1ヶ月かけて読み終えた方(『漱石全集 月報』を選んだ方)まで!観覧者の中にもあらためて読んできた人もいるだろうし、イベントの存在だけでも読書のきっかけになっていますね。

皆さんの話を聴いていると、漱石にとても詳しい方もいれば、それほどでもない方もいる、それぞれの観点からその本を紹介するのがとても面白いんです。本って「正しい読み方」があるのではなく、読者の数だけ読み方があっていいですよね。「あぁ、わかる~」と思う話もあれば、「お、それは私にはない視点だ」という話があったりして、本当にワクワクしました。

例えば、『三四郎』を紹介した方は与次郎愛を熱く語っていて、もはや『三四郎』ではなく『与次郎』として紹介しているかのよう(笑)。私は与次郎はノーマークだったので、与次郎メインに読み直してみようと思いました。また、『こころ』を紹介していた方が、読む度に気になるところが違うとおっしゃっていたのは、私も全く同感だったのですが、「上 先生と私」での先生と私の仲が怪しい説(つまり、師弟愛以上の愛があるのではという説)は私は思いつかなかった(笑)!これもその視点で読み直してみたいな。

こんな形でいろいろな読み方が聴けるのが本当に楽しいんです。また、質問タイムも、その本を読んでいない人、漱石に詳しくない人もウェルカムの質問タイムでよかったなあ。投票はゲーム部分であって、結局本好きの人が本の話をしたくて集まっているというのが、楽しい雰囲気につながっているのかも。投票結果は、確か第1部は『三四郎』、第2部が『こころ』がチャンプ本になったと記憶しているのですが、どれが勝ったというより、面白い視点や自分が読んでみたくなった本の方が記憶に強く残っている、そんなイベントでした。

また、これぞ図書館の強みというのが、紹介された本をはじめ、さまざまな漱石関連本が借りられること。イベント後に出口に設置していた関連本を集めた棚は、他館からも取り寄せたようで同じ本が並んでいたり、また作品の文庫本でもさまざまな出版社から出たものが並んでいたり。私も手が伸びましたが、既にそのときいろんな図書館から借りた本が7冊あるという状態だったので、理性で読書欲を抑えました(笑)。借りている本に余裕があるときに、ゆっくり読もうと思っています。

§ ビブリオバトルの面白さ

私は、図書館開催のものに限らず、ビブリオバトルを見たのは今回が初めてで、とても面白いゲームだと思ったので、司会を務めていらっしゃった方にもいろいろ話を聞いてみました。

まず、不思議に思ったのは、チャンプ本を決める際にどれが何票とは発表せず、挙手で投票したものを司会の方が数えて1位になった本が何かだけを発表していたんですね。発表者の方は観覧者席の最前列に座って一緒に投票するので、誰に何票入ったかはご本人にはわからない状態なんです。

この点をお伺いしたら、0票のこともあるし(ただ今回は、私も3列目だったので全体が見えていたわけじゃないけど、いろんな本に投票が割れていたと思います)、発表者側が知りたくないケースもあると。確かに、バトルが目的というより、バトルを媒介としていろんな人の読み方を聴けたことこそが楽しかったので、バトル要素についてはそれくらいの緩さがいいのかもしれませんね。「チャンプ本を決める」という仕組みには、勝つのは発表者ではなく本であるという思いがあるということもおっしゃっていました。

また、司会の方がおっしゃっていたのは、「人を通して本を知る、本を通して人を知る」ということ。今日の発表者は皆さん知らない人なのに、5分間の発表を聞いただけで何となく人となりを感じてしまうし、友達とビブリオバトルをしたりすると「こんな本を読んでいて、こんなことを考えているんだ」という発見あったりして面白いとおっしゃっていました。もちろん、自分とは違う視点をもった方の紹介で、新たな本に出会えるという楽しみもありますよね。こうした公けのビブリオバトルと個人的なビブリオバトル、それぞれの面白さがあるんだなあ。

今回初めて行ってみて、本当に面白かったので、図書館以外の場所で開催されているビブリオバトルにも参加したり、機会があれば発表者としても参加してみたいな。私が各図書館の公式サイトを見ている限りでは、東京の公立図書館では他に開催しているところはまだないと思うのですが、本郷図書館以外の図書館でもぜひ開催してください!

図書館のイベントというと、講演会のように専門家などの話を一方的に聞くイベントが目立ちますが、ビブリオバトルのようにもっと協同的に本好きが集まれるイベントも、図書館はもっと開催していいのでは。今って、インターネットが普及して、情報を受け取るだけでなく発信も容易にできるようになっている。皆が同じ立場で本の話をやりとりする場を作るというのは、それこそ公共の図書館に相応しい役割だと思います。

それに、ビブリオバトルが公共図書館にとっていいイベントである要因のもう一つは、あまりお金がかからないこと。場所と時間を測れるものさえあれば、どこでもできる。参加者がかまわないなら、机も椅子もなしで、車座で開催したって構わないくらい。各発表の制限時間がわかるように、本郷図書館ではノートパソコンで時間カウントダウンソフトを使って、発表者はノートパソコン画面で、観覧者はパソコンに接続したプロジェクターで残り時間がわかるようにしていましたが、これも時間さえ分かれば何だっていい。懐にやさしいイベントですよね。

図書館はぜひこうしたイベントを開催して、利用者もこうしたイベントを見つけたらどんどん参加しましょう。本の話で盛り上がれるイベント、本当に楽しいです。本郷図書館さん、ありがとうございました!