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渋谷区立中央図書館 編

ハチ公ファイル』は、飼い主の死後も渋谷駅前で毎日帰りを待っていたことで有名な忠犬ハチ公に関する記事や文章を集めた本。渋谷区立中央図書館が編集・発行した資料で、"ファイル"という名前ですが、丈夫な製本がされています。

中身は、本当にハチ公に関する記事と文章を集めただけのもので、「この本はハチ公に関する記事・文章を集めたものだ」といった説明さえもありません。しかもページ番号も振られていないので、目次がついているのにその目次から参照ページをすぐに辿ることができません(苦笑)。でも、このひたすら集めただけのものを通して読んでいると、これがとても面白いのです。

忠犬ハチ公は言わずと知れた帝国大学農学部上野英三郎教授の飼い犬ですね。上野氏が澁谷町大向から仕事に向かう際、渋谷駅までの行き・帰りに毎日ハチを伴っていた。ある日、上野教授は教授会出席中に脳溢血で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまったのですが、ハチはそれを知らず、毎日渋谷駅まで行き、主人の帰りを待っていた。

その頃、渋谷駅の辺りにはハチに限らず飼い犬や野良犬が自由に歩いていて、ハチもそんな犬の一匹として、ときに子供と遊んだり、ときにいらずらされたりしていたのですが、1932年(昭和7年)10月4日の東京朝日新聞に帰らぬ主人を待ち続ける犬として紹介されるや、日本全国のみならず海外でも知られる犬となります。後には修身の教科書にも取り上げられ、今でも渋谷駅前の銅像を知らない人はいないと言っても過言ではないでしょう。

銅像はまだハチが生きている間、1934年(昭和9年)に改札口の前に建てられますが、戦時中の金属回収で鋳潰されてしまいます。が、戦後銅像再建の話が出て、1948年(昭和23年)5月に地元民による銅像再建会が設立され、初代銅像制作者安藤照氏の長男・安藤士(たけし)氏によって再建。それが現在のハチ公銅像です。

1933年(昭和8年)8月23日の東京朝日新聞の記事では、ブロンズ像制作中の安藤照氏を取材しています。この時は、渋谷駅に銅像をという話はまだなくて、帝展に出展する彫刻を制作しているところなんですよね。記事では、

一つ悩んでゐる事は、ハチ公の耳です、ハチ公を代表的な日本犬として殘す爲には 兩耳のピンと立つて盛んな時のハチ公の姿を殘したいし、又一面現在目の前に片耳うなだれたハチ公の老の姿を強(原文は旧漢字)いてかへたくもない氣もする、さてどうしたものかと思案してゐる所です

という安藤氏の悩みが紹介されていますが、結果としては左耳のたれた姿になりました。

ハチ公は剥製が上野の国立科学博物館に保存されていますが、こちらは両耳がピンと立った元気な頃の姿を再現しているのですよね。有名になってからのハチの姿を残すか、それ以前の純日本犬らしい姿を残すかということでいろいろ揉めたようなのですが、こうして剥製と銅像でそれぞれの姿を見られるというのが一番いい結果なのかもしれません。

ハチ公の話といえば、主人を待ち続ける話が断然有名ですが、おぼれかけている少女を助けた話や、他の犬が喧嘩をしていると仲裁に入るエピソードなんかも伝えられているのですね。ハチが有名になったきっかけの東京朝日新聞記事「いとしや老犬物語」にもハチの喧嘩の仲裁の話が紹介されていて、これがなかなか格好いいんですよ。人間の男の人だったら、惚れてしまいそうです(笑)。

そうやって人間が美談を伝えたがる一方、ハチ自身は自分を取り巻く人間達をどう見ていたんでしょうね。戸川幸夫氏の短編小説「忠犬像紳士録」(角川文庫「咬せ犬」掲載)はハチ公に関わる人々をモデルにした作品なのですが、注目を浴びる渋谷駅長の私設秘書を名乗り人物が現れたり、ハチ公の存在を日本犬保存の力としようとする動きがあったり、本家争いの騒動が起きたり。小説なのでフィクションも入っていると思うのですが、人間の世界でハチへの純粋な思いとハチ公人気を利用しようとする思惑が交錯するのは、現実にもあったんだろうなあ。そんな中、ハチ(小説内では"ロク")自身は

ところで当のロクは人々に囲まれて、自由だった昨日までに郷愁を覚えたのだが、その反面、駅のどこへでも自由に出入りができるようになったことは薄気味悪いことではあったが、いささか幸いだった。これで夏は涼しい小荷物部屋、冬は暖かい駅のストーブの傍と木戸御免になったわけである。

といった具合で、現実のハチもそんな風に自分を取り巻く世界を眺めていたのかもしれません。

こんな感じで、新聞記事から小説までファイルされているので、ハチ公に対する様々な捉え方に触れることができて面白いんです。冒頭に書いたように、本当に関連記事を集めただけなので最初はびっくりしましたが、読み終わってみるとこのシンプルさがかえっていいですね。ただ、やはりページ数は振っておいて欲しいけど(笑)。

この『ハチ公ファイル』はどうもある時点で資料を追加したようです。一番最後に「追補」という章があるのですが、その中に収録されている渋谷区立中央図書館だより「ひととき」第11号(1978年7月号)には、このハチ公ファイル自身が紹介されているので。現行の「ハチ公ファイル」もこれで完成とは限らず、もし渋谷区立中央図書館がハチ公関連記事を集め続けていれば、この先また資料が追加されることがあるかもしれませんね。

<取り上げた資料>
ハチ公ファイル
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