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葛飾の昔ばなし

葛飾昔ばなし研究会 編

葛飾の昔ばなしの研究と採集を目的にした「葛飾昔ばなし研究会」の手による「葛飾の昔ばなし」は、2001年3月に第一集、2002年10月に第二集が発行されています。第一集に22話、第二集に17話が収録されています。

まず第一集の最初のお話「流れついた宝船」の冒頭が「新小岩あたりまで、海だったころの話です」で始まるので、そんな頃があったの?と一瞬びっくりしましたが、考えてみれば2005年11月の荒川区図書館のイベント「秋の図書館フェア 来(らい)!ぶらり日本一周」で「縄文時代には埼玉にも海があった」という記述を見たことがあるので、新小岩に海があっても全然おかしくないなあと。

「お花と将軍さま」の話なんかは本当の話だと思っていいのかな。将軍吉宗が鷹狩り最中に具合が悪くなって休ませてもらった茶屋のお花という娘がたいへん気配りよくしてくれたので、「たいそうお世話になった。お礼に、この店の名前をつけてあげよう。この店はこれからお花茶屋と名乗るがよかろう」と言ったのが、今の葛飾区のお花茶屋の地名となっているという話です。しかし、名をつけてあげようというわりにはそのまんまじゃないかと突っ込みを入れたくなる名前ですね(笑)。

語り伝えられてきた話をまとめたものなので、ところどころで話そのものだけでなくその話を聞いたときに子供心に思ったことなどが織り込まれているのも面白い。こちらも読んでいて、自分の子供の頃に感じたことを思い出します。大人になったら感じないけど子供の頃はすごく恐ろしく思ったこととかありますよね。

人車が京成電車へと変わる「父ちゃんは人車をおっぺしていた」や青戸の団地が工場だった頃の「青戸の自転車工場」は、ご年配の方の思い出話と言っていいような話。それが語り継がれて、今は昔の物語となっていくのでしょうね。

第二集になると、史実基づき度が俄然高くなり、時代がいつ頃だとか場所は今のどこかだとかがかなりはっきり書かれています。

現存する施設や風景にからんだ話も多く、例えば「しばられ地蔵」。

呉服屋で働いている佐助さんは、荷車に反物を積んで南蔵院の前を通りかかりました。疲れていたのでちょっと休んでいるうちについうとうと。目を覚ますと反物がない!これは大変と奉行所へ駆け込みました。
大岡越前守は「反物を盗まれるのを黙って見ていた地蔵もけしからん。縄をかけて連れてまいれ」と南蔵院の地蔵を連れてこさせます。江戸の町はその話で持ちきり。
さてそのお地蔵さまの取調べの日、集まった野次馬達に大岡越前守が「黙ってさばきの場に入るとはけしからん。罰として反物を一反ずつ持ってまいれ。」
その反物の中に盗まれた反物があるのを佐助が発見し、無事犯人が捕まりました。

ざっとこんな話なのですが、南蔵院にはしばられ地蔵というのが今も存在するのです。と言っても、今は東水元にある南蔵院は、このお話の頃には本所の業平橋にあったそうで、お話の舞台としては実は葛飾じゃなかったりするのですが。

私はまだ自分で見に行ってないのですが、このお地蔵さん、本当に縄でぐるぐる巻きにされているのですね。縄を巻いて願をかけると、その願いが叶うとされているのだとか。今度行ってみよう。

そんな感じで、おとぎ話的なものから体験談までいろんな話が収録されています。大人が読んでも面白い、というより、特に第二集は小学校低学年にはちょっと難しいかもしれないくらいの文章です。時代物がお好きな人なんかにも楽しんでもらえると思いますよ。