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第2回 大人のボードゲーム部@日比谷図書文化館

―2018年7月10日のイベント
visit:2018/07/10
§ 1種類のボードゲームを皆で体験するイベント

千代田区立日比谷図書文化館で2018年7月10日に開催された「大人のボードゲーム部@日比谷図書文化館」に参加してきました。日比谷図書文化館では、この年の2月20日に第1回目の大人のボードゲーム部を開催しており、これが2回目です。

この回は「チケット・トゥ・ライド ヨーロッパ」を遊ぶということで参加者を募集しており、実際に会場である4階セミナールームAに行くと、設置されている5つのテーブル全てに「チケット・トゥ・ライド」が用意されていました。更に詳しく言うと、5つのうち1つは「チケット・トゥ・ライド アメリカ」で、そちらをやりたい人がいたらできるようになっていましたが、実際は参加者全員がまずは「ヨーロッパ」をしました。

これは市販のボードゲームを楽しむ図書館イベントではあまりないやり方と言えそうです。私は2018年になってから急激に開催数が増えた都内の図書館のボードゲームイベントにできる限り参加していますが、日比谷図書文化館のこの回以外は全て<さまざまなボードゲームを1つずつ用意し、各テーブルで異なるボードゲームを楽しむ>という方式でした。日比谷図書文化館でも、1回目の大人のボードゲーム部イベントは、「カタン」をメインゲームとして2組用意した以外は、さまざまなボードゲームを用意するやり方だったようなので、この<全員で同じゲームをする方式>は日比谷図書文化館にとっても初めてのやり方だったと思います。

§ 説明を受けたあと、各テーブルでゲームスタート

好きなテーブルに座り、同じテーブルになった人とこれまでのボードゲーム経験などを話しているうちに、イベント開始時刻を迎えました。まずはチケット・トゥ・ライドで遊んだ経験がある人に挙手を募り、その人たちが散らばる(=各テーブルに1人以上経験者がいるようにする)ようにグループを組み替えます。実際、4つのテーブルにそれぞれ4人程度のプレイヤーがいるうちの1~2人が経験者というかたちになりました。

その後、全員が1つのテーブルに集まって、職員さんからゲームの説明を受けます。チケット・トゥ・ライドはプレイ時間が1時間ほどのボードゲームで、説明することもたくさんあるのですが、基本的にはこの場で全てのルールを説明し、あとはA4用紙1枚にルールをまとめたものを配布、更に各テーブルにいる経験者さんやプレイ中に職員さんがテーブルを回ってサポートするかたちです。複雑なボードゲームの場合、最初は簡単な説明だけをしてゲームを初めてしまい、ゲームの局面に応じて説明を加えていくやり方をすることも多いですが、この回では最初に全て(トンネルあり、駅舎ありの本格的バージョン)を説明してもらいました。

説明を受けた後は、各自テーブルに戻って実際にプレイします。私のいたテーブルはプレイヤーが4人で、内訳としては、チケット・トゥ・ライドも含めてボードゲーム経験多数の方が1人、ボードゲーム経験はあるけどチケット・トゥ・ライドは初めてという人が2人、私は江戸川区立東葛西図書館でトンネルなしの簡易ルールでプレイしたことが1度あるだけというメンバーです。

私ではないチケット・トゥ・ライド経験者の方も久しぶりのようだったので、遊び始めてしばらくは、「こうでしたよね」と確認しながらゲームを進めていきました。ルールをまとめた紙をいただいたので確認しやすく、それでもわからないことがあれば、テーブルを回っている職員さんを呼んで聞けばいい。最初は皆が手探り状態でプレイしていたのが、徐々に先のことや他のプレイヤーの動きを踏まえての戦略を取り始めます。

とはいえ、遊びのイベントなので、和やかな雰囲気。チケット・トゥ・ライドは、ボードに描かれた鉄道路線にコマを置いて自分の路線を増やしていくゲームで、ボード上の地名には実在する場所が使われています。なので、ときには旅行で行ったことのある場所の話になったり、プレイヤーによって戦略が違い、そこに性格が表れるのも面白く、雑談をしながらゲームを楽しみました。

§ 見知らぬ人とゲームをする面白さ

図書館でボードゲームイベントを行うことには、ゲーム文化を体験する、ゲームを通じて知識や論旨的思考を学ぶなど、いろいろな側面がありますが、今挙げた点はボードゲームそのものが持つ要素です。家族や友達とではなく、図書館に集まる見知らぬ人とゲームをするということがどういうことかを考えると、コミュニケーション能力を高める要素があると言えるでしょう。初めて顔を合わせた人同士で、ときに助けてあげたり、ときに意地悪な戦略を取ったりしながら楽しくゲームをすることで、自然と会話が生まれます。

また、私のテーブルには、なるほどプレイヤーとしてこうすればわかりやすいという振る舞いをしていた人がいて、勉強になりました。チケット・トゥ・ライドは、自分に手番が回ってきたときにできることがいくつかあるのですが、その人は自分がしたいことを終えたあとに、毎回「終わりました」とおっしゃっていたんです。本当に単純なことなのですが、ボードゲームでは行動として何もしなくても戦略を考えていることもあるので、何もしなくなったからと次に手番を回していいというものでもありません。特に見知らぬ者同士で遊ぶ場合、この単純なことがやりとりをスムーズにしてくれます。

そうやって楽しんでいるうちに、ゲームが終盤を迎えます。最後の一巡を終えた後に皆で得点を計算して、勝者を決定。終わった後も、何が決め手で勝ったのか、何を狙って失敗したのかなど、それぞれの戦略で話が盛り上がりました。一段落ついたところで、他のゲームもやってみようかということになり、その他のゲームが置いてあるところに行ってみると、「枯山水」「ラーラブレター」「カルカソンヌ」「カタン」「ガイスター」「モダンアート」などがあり、そのうち「ラブレター」をプレイしました。最初は基本のカードだけで、回を重ねるごとに追加カードも足して遊んでいるうちにイベント終了時刻を迎えました。

§ 1種類のボードゲームを楽しむイベントの裏にあること

この図書館イベントを振り返ると、やはり全員が同じゲームをプレイするというのが大きな特徴です。当たり前ですけど、このやり方で行うには、同じゲームを複数揃えないといけない。日本ではボードゲームは図書館資料として扱われていないのが現状のなか、限られた予算を同じゲームの複数購入で使うのはかなり難しいと思います。

日比谷図書文化館は、指定管理者に指定された団体の中に株式会社図書館流通センター(以下、TRC)が入っており、このイベントもTRCのスタッフさんが運営しています。TRCは図書館でのボードゲームを積極的に行っており、ボードゲームの箱に「TRC~」とラベルが貼ってあったことから、このボードゲームは日比谷図書文化館が所有しているものではなく、TRCの所有するボードゲームだと思われます。更に、同じTRCが指定管理者である港区立赤坂図書館が隔月で行っているボードゲームイベントでは、7月の回に行ったときに、職員さんが「今回から赤坂図書館が持っているボードゲームだけでなく、TRC本部からゲームを借りられるようになったから、これから遊んでもらえるゲームが増える」とおっしゃっていました。これらを総合すると、受託している図書館で使うことを想定して、本部で同じボードゲームを複数揃えはじめており、だからこそこの回でも4つ(アメリカ版も含めると5つ)のチケット・トゥ・ライドを用意できたのだと思います。

これから先、ボードゲームが図書館資料、つまり図書館の所蔵物として扱われるのか。扱われるようになった場合、どのように所蔵するボードゲームを選んで、どのように蔵書ならぬ「蔵ボードゲーム」を揃えていくのか。今はまだ、全国に数多ある図書館のうち数館でボードゲームイベントをしたり、貸出をしている状態ですが、広がりはじめた今の時点からしっかり考えておくのがいいと思います。

§ ゲーム説明の奥深さ

もう一つ、ボードゲームの説明の仕方も、これまで私がよく受けてきたものとは違うもので、興味深かったです。プレイヤー内で手番を回していき、最終的な得点などで勝利や順位が決まるゲームの場合、その時系列に応じて、「手番が回ってきたときにできることはこれ」→「最終的にこれで勝敗が決まる」という流れの説明になりがちですが、今回の説明は、「最終的に目指すのはこれ」→「そのために自分の手番が回ってきたときにできることはこれ」という流れで説明していました。

チケット・トゥ・ライドやカタンといった複雑なゲームでは特に、最初はとりあえず手番が回ってきたときにできることを簡単に説明してゲームを始めてしまい、複雑なルールについてはそれが使える局面になったところで説明するような、「詳しいルールは追々」方式の説明をすることがよくあります。このやり方は確かにとりあえずのプレイはできますが、そもそも何でこんなことをしているのかわからないときもある。更に、後で説明されたことを最初から知っていれば、この選択をしなかったのにということも起こりえます。

その点、今回のイベントでの「目的から手段へ」という説明の流れは、とてもわかりやすかったし、何を目指せばいいかというのが明確にわかりました。最初に多くの説明を受けると覚えきれない点もありますが、細かいことはルールを書いた紙を見るなり、わかっている人に聞くなりすればいい。何よりゲームをするうえで大切なのは、<自分の手番が回ってきたときに何ができるかを覚えること>よりも、<ゲームの目的を踏まえて戦略を考え、手番が回ってきたときの行動を選択すること>です。今回の説明は、それに適った説明でした。

今回の説明を担当したのは、スウェーデン出身の図書館員さん(説明は日本語で、とても流暢に話してくださいます)だったので、もしかしたら欧米では「目的から手段へ」という説明の流れこそスタンダードなのでしょうか(またお会いしたときに聞いてみます)。私は図書館でのボードゲームイベントに参加するなかで、ルール説明を論理的思考力や表現力が問われるものだと感じているのですが、この説明の仕方は自分でも使ってみたいと思いました。

§ 大人の知的ゲームの世界へぜひ

長々と解説してしまいましたが、表面的には楽しく遊べて、実はいろいろな能力が鍛えられたり、考察が深められるのがボードゲームだと思います。日比谷図書文化館ではこれからもボードゲームイベントを開催していくようなので、ご興味ある方はぜひ。第3回が8月8日に開催されるはずだったのが台風で中止、あらためて第3回が9月11日に開催(こちらはもう定員に達してしまいました)されるので、この調子でいけば1~数ヶ月に1度ペースで開催してくれそうです。

当サイトでは、東京都の公立図書館でのボードゲームイベント開催予定まとめを作っており、日比谷図書文化館のボードゲームイベントもわかり次第載せているので、参考になれば幸いです。日比谷図書文化館の場合は特に「大人の」と謳っているので、成熟した知的ゲームを体験したい人にはお薦め。一緒にボードゲームの世界を楽しみましょう。